【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
「どした」

 慎吾が訊いてきたので、見ろと促した。

「なになに……

『光が了承すれば、貴家のプロジェクト期間中に限ってレンタルすることはやぶさかでない。

 その代わり、隠岐護孝氏に多賀見ゆかりの女性に会っていただきたい。

 ついては〇月〇日、TOKAIヒルズの屋上庭園にて、顔合わせをされたし』

……うわー、これって見合いじゃん! 足許見られてる! 思いっきりふっかけてきたな!」

 慎吾の言葉を訊くまでもない、随分と挑戦的な文言だった。
 エスタークホテルチェーンの隠岐CEOといえば、借金してでも粉飾決済しても縁組したいと評価は高いらしい。
 財務に明るい慎吾がいるので、そんな金メッキ経営ぶち破ってやるが。

 そんな、普段は買い手市場の俺が札ビラで頬を引っ叩かれた気分だ。
 当然、多賀見にいい感情はいだけない。

「ああ。俺にとって、このプロジェクトがどれだけ大事かってことを知ってるってことだよな」

 屋上庭園のデザイナーが隠岐家の事情を漏洩するとは考えにくい。

「……多賀見に漏らしたのは、あいつか」

 声に苛立ちが混じってしまうのは仕方ない。
 俺の呟きに慎吾も賛同の意を示す。

「可能性はあるなー。アノ叔父サン、お前に経営権全部奪われて、挙句に親族会議で無能呼ばわりされたしな。根に持ってんじゃないの?」

 父方の叔父は自堕落だ。奴の財布であった祖母と別邸を俺が囲い込んだことを知り、恨んでいる。

 窮地でもなんでもないが、不快な状況に追い込んでくれた叔父への制裁はきっちりしてやる。

 それよりも対策を講じなければ。
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