【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
「慎吾、多賀見の経営状況は」

 叔父は俺に不良債権を押しつけるつもりか。
 俺が投げた問いに慎吾がデータを呼び出す。 
 彼の目が丸くなった。

「ん……。債務保証コストは低い、営業利益率は五ケ年連続右肩上がり」

 予想と違った。
 多分、慎吾も驚いたのだ。

「途切れた理由は?」
「六年前に新工場建設だ」
「悪い理由じゃない」

 ますますわからない。
 叔父のことだから、てっきり不良債権を押しつけてきたのかと思ったが。

「手元資金たっぷり。レバレッジだけど……、他のデータから考えられるのは、自己資本率が高いのは他人資本をあてにせずに経営出来てるってことだ。全てにおいて、素晴らしいな」

 慎吾の目がキラキラしていた。 稀に見る優良案件だ。

「この規模の企業にしては時価総額もなかなかだし、経常利益もいい。自社が生産する医薬品については市場を拡大していってるな」

「……だとしたら、あいつは絡んでないな」

 叔父が、(おれ)に塩を贈るなんてあり得ない。

「だなー。隠岐ほどでなくても多賀見も業務提携のお誘いは潤沢にありそうだ」

 つまりは身の程知らずを提案できるほど、切羽詰まってもなければ、大胆な発想力もある。

「こういう中小企業は古き良き日本が詰まってて、強敵なんだよなー」

 慎吾の奴、ゲームの中で当たってみたかったラスボスに出会えたようなワクワク感だ。

「どう、潰してやろうか」

 俺は誘い文句を口にした。
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