【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
「いっそ、土砂降りだったらよかったのに。……ん？」

　庭園を見るともなしに眺めていると、白いものが在る。

「蝶……？」

　エレベーターから見える、高速道路を走っている車は手のひらに載るくらいに小さく見えるのだ。
　そんな訳はないと慌てて思い直す。
　すると、あれは。

「人だ」

　すぐに、多賀見家が庭園を貸切っていたことを思い出した。

「あれが、見合い相手か」　

　苦い想いが込み上げてきた。

「しかし、蝶みたいだな」

　尚も見ていると見合い相手は、蝶のようにひらひらと動いていく。

　目が離せず無意識に動きを追っていると、やがてある一点でぴたりと止まった。
　庭園の中心に在る、かなり大きめな樹木のようだ。
　エレベーターが下降の圧を感じさせずにスムーズに一階に到着した。
　なんとはなし、急ぎ足になる。
「居てくれ……ッ」
　なぜか祈る気持ちになり、最後には走っていた。
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