【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
「『光』? ……もしかして、ショッピングモールの坪庭『野点』を設計した?」

 びっくり。
 従妹の名前や、どうして私の仕事まで知ってるの?
 この人、いったい何者?

 逃げだしたい。ああ、クロマツを背にした自分を恨む。

「……あの庭を、貴女が」

 信じられない、という声音。彼は呆然としているようだった。

 チャンスだ、少しずつ距離をとろう。
 じゃり。草履が音をたてる。

 ハッとした男性が私をじっと見つめた。あん、失敗。
 なんて悠長に思ってたら、距離を詰めてきた。

 怖い、恐い、(こわ)いって!

 彼からもの凄い熱と圧を感じる。
 返事したら最後、頭からガブリとされる気がする。


「貴女は本当に『野点』を手がけた、光氏なんだな?」
 
 『言い逃れは許さない』的な雰囲気だ。

「…………はい」 

 覚悟を決めて返事した途端、彼はさらに近づいてきた。

 とっさに逃げようとしたのに、あっという間に腕の中にしまいこまれてる。

「……まさか、こんな早くに逢えるとは。貴女だったとは」

 呻くような声きキョトンとしてしまう。

 ん?
 初対面だよね。なんで、この人熱心なの?

 引き換え、私は彼のことをなにも知らない。
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