【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
「無理。私、帰りますっ」
「まぁまぁ、そう慌てなくても」

 すっくと立ち上がったはいいものの、ストンとまた座らされてしまった。……隠岐さんの膝の上に!

 なんでぇーっ。

「送るよ。時間もないことだし、結納や婚約式の日取りを道々決めていこうか」

 ……なんでそうなる。

「そうだ、ひかるのご家族への挨拶はいつにしようか」

「ちょ、ちょっと待ってください!」 

 大安吉日で、近々で……なんて呟きながら、タブレットを操作しはじめた彼を私は全力で止めた。

「私っ、結婚とか頭がついていかなくて!」

 必死に叫べば、隠岐さんは自信たっぷりに言ってのけた。

「だったら大丈夫。多賀見氏には光を口説いていいって許可を頂いてる。あとは俺が氏のご自宅に足繁く通って、貴女を堕とさせてもらうだけだから」
 
「っ……!」

 どうしてこの人が私を口説くの。

 にらみつければ、ニッと口角を上げてみせた。
 むうう。
 悪そうな笑みも慈愛百パーセントの笑みもどちらも素敵なんて、ずるい人だ。

「言っておくが、俺にあたるのはお門違い」

 口を尖らせていたらしく、むにゅとつままれた。

「俺は多賀見の策略にまんまと乗せられ、彼らが差し出してきた女性にあっさり魂を奪われた、哀れな男にすぎない」

 口を開きかけたが、また閉じる。

 くそう。
 今回の件、絶対に玲奈ちゃんが主犯だ。
 あとで問い詰めちゃる。

「隠岐さんは、哀れな男性にはちーっとも見えませんけど!」

 ぷんすこしていると、影がさした。

「その認識は正しい。俺は惚れた女性を口説くことを許された、幸運な男だよ」


 ちゅ、と濡れた感覚があり、隠岐さんが近過ぎた距離からさっきまでの場所へ離脱するところだった。


 今、なにがあったの?
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