【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
「ありかもね。あ」

 玲奈ちゃんが言い淀んだ。

「なーにー?」

「ううん、なんでもない。けど、大丈夫?」
「ん?」

 なにを心配されてるのかな?

「あそこ、VIPがよく使うから警備厳しいって噂だけど……」

 うん、そうだね?

「ひかるちゃん、庭園ヲタクだから目をハートマークにして木に抱きついちゃったり」

 う。

「ハイテンションになっちゃたりするでしょ?」

 どきん。

「職務質問されちゃわない?」

 目を明後日のほうにむけてしまう。
 庭園内や木々に夢中になってて、ハッと気がついたら周りからドン引きされてたことは少なくない。

「……大丈夫、とは言い切れない……」

 玲奈ちゃんの指摘が的確過ぎる。
 うっかりしてた。
 あんな、入り口に監視カメラがついているような庭園、中だってガードマンがいたりするに違いない。

「その問題があったかぁ……」

 時代は男女平等だ。 

「不審者でも、女性だったら見逃してくれるとか。ないよね……」

 だめだ。
 玲奈ちゃんみたいな美人さんならともかく、私みたいな地味女子がそもそも『女性』にカテゴライズされてない。

「あるよ」

「諦めるしか……え? そんなミラクルな技があるなら教えてっ」

 私は目をキラキラさせて飛びついた。

「いいよー。私も従姉がつかまるの、いやだもの」

 玲奈ちゃんは、良い考えを思いついたようで、目を輝かせている。
 が、なんとなーく悪いことを考えているときの顔に見えなくもなく?

 お祖母様の美しいストールをお姫様のヴェールに見立てて風に飛ばされちゃった時とか。
 昔飼ってたシェパードのジョンにメイクをしてあげたときとか。

「なんか玲奈ちゃん。お父さんの秘蔵の盆栽をクリスマスツリーに仕立てたときと同じ顔つきをしてるんだけど」

 あからさまに目をそらされた。
 気のせいじゃなかったか。

 ま、いいか。
 多賀見家のお叱りは連座方式。

 お祖母様いわく『一緒に叱られたほうが、悪だくみした達成感があっていいでしょう』
 ほんとそう。
 玲奈ちゃんはアイディア舞台、私は実行部隊。

 屋根瓦を滑り落ちるの楽しかったもの!

「玲奈ちゃんのイタズラ、楽しみだよ」

 あんな警備すごいところに私達が出来ることなんてないし。

 ところが。
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