【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
 私がまだ幼稚園くらいのときだったろうか。
 父についていった庭園で王子様とお友達に出会った。

 何度もその庭園を訪れていた私は、慣れてないらしい二人をいっぱしのガイドのつもりで案内してもらった。

 ドングリが沢山拾えるところ。
 綺麗な石が底に沈んでいる池。
 大好きなサンタクロースのように年古た、スダシイの木。

  
『あれはなんだろ』

 ふと、お友達の少年が呟いた。
 見上げると枝に金色のものが光っている。

『カラーボールじゃないか?』 

 目をすがめてから頭を捻った王子様にいい所を見せようとした私は、叫んだ。

『きっと、よーせーのたまごだよっ。ひかる、とってくるね!』

『危ないよ!』 
『へーきっ』

 私は王子様の制止を振り切り、木に登り始めた。
 枝の上を、船のマストよろしく歩きだす。

『ねー、みてー。ひかる、あるくのうまいでしょー』

『慎吾、誰か大人を呼んできて!』

 王子様が枝の下で腕を広げながら、お友達に指示を出した。

『わかった!』

 お友達が走りだそうとしたとき。

『わっ』

 私は枝に生えていた苔に足を滑らせて、落ちた。

 咄嗟に抱きとめてくれた王子様のおかげで私は無事だったが、彼は腕をかかえたまま起き上がれない。

『王子さまっ』
『ひかる! 無事かっ』

 少年のお友達と共に駆けつけた父は、血相を変えていた。

 大泣きしながら私がなんとか事の次第を告げると、事情を飲み込んだ父は、少年に応急手当てをしながら大声で叱った。

『いつも言ってるだろう、父さんの傍を離れてはいけないと! お前の軽率な行動がこの子や木を傷つけてしまったんだぞ! お前には、杜や訪れる人を守る義務がある。子どもだからと言い訳せずに自覚しろ!』

『父しゃん、ごめんなしゃ〜い……』

 えぐえぐと泣く私に、父は厳しくいさめた。

『謝るの、間違ってるだろ』

 ひかるは護孝に向き直って頭を下げた。

『王子しゃま、ごめんなしゃい。椎の木、ごめんなしゃい……』

『無事で良かった。もう大人がいないところで危ないことしちゃいけないよ』

 痛いだろうに王子様は、私に微笑みかけてくれたのだ。
 父が庭園事務所まで彼を抱きかかえて連れていった。
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