【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
「でしょう?」 

 むむ、たしかに。
 私は三六五日、屋外の仕事。
 気をつけているんだけど、いたしかたない。肌が痛んでいるよね……。

 が。
 愛しの庭園とのデートとはいえ、先立つものが。

「えー。でもエステ高いし、時間がないよぉ」
「ふふ。じゃーん!」

 泣き言を言うと、玲奈ちゃんはチケットらしき紙を扇のように広げてみせた。

「……それ、なに?」

「今度ウチの会社でね、漢方に基づいた美容サロンを作ろうかなって話になってて」

 玲奈ちゃんが、札ビラで仰ぐお大尽みたいに、パタパタとチケットで仰いでみせる。

「ふぅーん……すごいねえ」
「で、ひかるちゃんがモニターに丁度いいと思うんだ」

 なんと。

「ひかるちゃんなら、私つきっきりについてられるし、体重管理バッチリ」

 体重も白日の下に晒されるの?

「サイズはミリ単位」

 お、おう。

「漢方薬って言っても科学的だね?」

 玲奈ちゃんいわく『気持ちいいを科学(=数値化)する』のだという。
 そのうえで、『多賀見製薬が提供する漢方エステはここまで気持ちいい』とプレゼンしていくのだとか。

 現実はとってリアル。

「時代に乗り遅れないようにしないとねー」

 多賀見家は江戸時代、藩医を勤めていた家柄である。

 明治維新の際に、漢方薬の製造販売から手広く手を広げて、今では製薬会社に成長している。

 薬草造りの為の環境保全にも力を入れてるので、三ツ森造園事務所が手入れを任されていた。

 のんびりとした口調だが、玲奈ちゃんは多賀見製薬の将来をきちんと見据えている。
 会社では企画事業部に所属しており、未来と共にある多賀見を目指すため、彼女はこれまでも様々なヒットを飛ばしているらしい。

 美味しい薬膳レストランのフランチャイズ化や『生薬の里見学ツアー』など、玲奈ちゃんか社長賞をとり、メディアにも頻繁に取り上げられている。

 すごい。
 オフィス勤めだけでも偉いのに、私の従姉妹ちゃんは会社とユーザーに役にたつ楽しいことを発信し続けている。ほんとにただ、ただすごい。

 それはそうとヒルズガーデンの一般公開日を、確認しておかなくちゃ。
 私が呟やけば、玲奈ちゃんは慈愛があふれる笑顔を向けてくれた。

「ウチのフラッグシップショップもヒルズに入ってるから、来月の開放日を早めに訊いておくねー」

「ありがとー!」 

 今から考えると、私は玲奈ちゃんの聖母のような微笑みの意味を勘違いしていたのだ。
< 7 / 125 >

この作品をシェア

pagetop