【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
 携帯をしまったときには、父は普段の表情に戻っていた。

「悪かったな、私一人で対応して。母さんは急な託児依頼が入ってな」

「母は職人さん達のお子さんを預かる、託児所を開いてるんです」 

 父の言葉を補足した。

「先ほどの件ですが……」

 父が改めて護孝さんに話しかけてきた。
 真剣な表情である。

「大雇い主である多賀見家がそれでいいと言うなら、ひかるを雇っている棟梁として従うしかありません。……三ツ森は名前の通り、多賀見の本宅と別邸の庭、そして所有の森林を代々守らせて頂いております」 

「存じております」

 話が庭園のことになったので、護孝さんもビジネスマンの顔になった。
 しかし彼の返事を受けて、なお父の表情が苦渋に満ちたものになる。

「一番大事な本宅の庭を任せられるのが、ひかるなのです。この娘に匹敵するほどの、信用と腕の足る人間を早急に探し出さねばなりません」

 私は父が、自分のことを買いかぶりすぎなのが恥ずかしくなった。

「おっしゃるとおり、『光』氏をプロジェクト専用にしていただくのです、難しさは理解しているつもりです」

 不思議なことに、父の言葉に護孝さんが同意する。

「隠岐家のネットワークだけではなく、TOKAIグループの力を駆使してでも最彼女と同等の職人を探し出します。無論、費用は隠岐家に負担させてください」

「あの」

 私だけが完全に蚊帳の外だった。
< 71 / 125 >

この作品をシェア

pagetop