【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
 護孝さんが私に向き直った。

「ひかるの庭は、樹木が伸びたい方向に自由に伸ばさせてやっているようなのに、秩序がある。人を温かく受け入れてくれて、自分もひかるの世界の一部になれるんだ」

 父がうんうん、とうなずきかけ。
 嬉しい。
 私が作りあげた庭を、他ならぬこの人が認めてくれたことが、ただただ嬉しい。

「ひかる、目が腫れてしまう」

 私の目から涙をそっと指で掬いとる護孝さんに、父が威嚇の眼差しを向ける。

「隠岐さん」

 父が恫喝をこめて呼びかけるも、まったく意に介していないみたいな彼は、無視。
 ……うん?
 護孝さん、別に父を怖がってる様子ないけどな?
 とうとう父が焦れた声をあげた。

「護孝君!」

 真摯な声に、護孝さんはようやく眼差しを父に向けた。
 ダッシュボードに駆け寄った父が酒瓶とショットグラスを取り出す。
 彼の前に並べると、ふちギリギリまで注ぎこんだ。

「俺の大事な娘を奪うんだ! 飲むよなっ?」

「涙目で義理の父親となる人が挑んでくるのに、どうして拒めるだろう」

 独りごちた護孝さんは髪に手を入れ、かき乱した。ついでネクタイの輪に指をいれて緩めると、ワイシャツのボタンを一つはずした。

 わ、ワイルドだ。カッコいい!

 父は護孝さんの独り言をしっかり聞いたらしい。
 まなじりも裂けよとばかりにくわっと目と口を開いた。
 火炎放射でもする気なんだろうか。

「その通りだっ」

 あ。
 五回吠えたのは新記録では。
 それにしても父よ。もはや否定する気もないのですか。

 護孝さんはショットグラスの一つを持ち上げた。

「いただきましょう。……ひかる。俺が倒れたら、秘書の慎吾に連絡してくれ」

 男達は目の高さに掲げたグラスをぐい、と同時に煽った。
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