【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
 身を固くした私に、護孝さんのお義母様がおっしゃる。

「義母がね、護孝の曽祖母と折り合いが悪かったの」

 お義母様からみた義理のお母さんて、護孝さんのお祖母様だ。
 その方が、お姑さんと?

「いきなり、こんな話をしてごめんなさいね。私がこの家に嫁いでらしたときは、お姑さんがまだご存命でね……」

 鉄火肌だったお姑さんは、おっとりされてたお祖母様にキツくあたったそう。

「義母が嫁いだとき、隠岐はまだ新興の成金だったらしいの」

 江戸末期の頃の隠岐は元々船宿だったらしい。
 日露戦争のとき御用達宿舎として重用された。

 第二次世界大戦が終結したときには、経営していたホテルを進駐軍に接収されたりしたらしい。

 ひいお祖母様は激動の時代、戦地にいたご主人にかわりホテルを守り抜いた。

 お祖母様は旧財閥の出。
 いわばお姫様が降嫁されたようなもの。

 逆格差婚だったせいか、お祖母様は旦那さんからもお舅さんからも大事にされたらしいけれど。

「高祖母と一緒に家業を盛り立てて、働いてきたお姑さんは、そんなところも気に入らなかったのね」

 お祖母様は当時28歳。
 お祖父様は22歳。

 お祖母様は長女で、末の弟さん(現在のTOKAIグループ総帥。ひえっ)を産んで亡くなられたお母様に変わって育てあげた。
 結果、嫁ぎ損ねたらしい。

 総帥はお祖母様に恩を感じてらして、旧帝国大学の同窓生であった親友であった護孝さんのお祖父様に縁談を持ちかけた。

「義母は、義父達のマドンナだったらしいの。お二人の結婚式は、義母に失恋した方達がくだをまいて大変だったらしいわ」

 お義母様が微笑んだ。けれど美しいお顔が曇った。

「でも、お姑さんはそうは思われなかったのね。よく聞こえよがしに言ってたの。『引くて数多な息子なのに、お荷物を押し付けられた』って」

 お姑さんもお祖母様も、護孝さんのお義母様にあたるようなことはなかった。
 だからこそ、お義母様はお姑さんのお祖母様への仕打ちが辛かったという。

「お姑さんが亡くなられても、お義母様は私によくしてくださって」

 すん。

「護孝のお嫁さんは私が守るって決めたの」

 お義母様の言葉にお義父様が口を挟まないところを見ると、少なからずお姑さんに反感を持っていたのかもしれない。

 護孝の名前は『お嫁さんを護って、お祖母様に孝行するように』って付けたのと聞いて、たまらなくなった。

「お義母様っ! ふつつかな嫁ですが孝行させてくださいっ。至らぬ点ばかりですが、ご指導お願いします!」

 気がつけば、叫んだあと最敬礼していた。

「ひかるさん……っ」

 お義母様が私を抱きしめてくださった。
 私も抱きしめ返す。

 べり、と護孝さんにひきはがされた。
 あん。
 護孝さんのお父様が目をきらきらさせて割り込んでこられる。

「ひかるさんは、三ツ森大樹氏のご令嬢なんだって?」

「お父さん、大樹氏のスケジュールは三年先まで埋まっているそうですよ」

 護孝さんが釘を刺す。

「でも」
「コネを使って横入りなんてさせませんからね」

 しゅんとなってしまった護孝さんのお父様に、胸がツキンと痛む。

 セレブリティの間では三ツ森大樹か、TOKAIヒルズの屋上庭園をてがけた造園師に庭を見てもらうのがステイタスだと聞いていたが、これほどと思っても見なかった。

「ひかるさんも、名うての造園師なんだってね?」

 気を取り直したようにお父様が話しかけてくださった。

「私はまだまだ駆け出しで」

「ヒルズの『野点』拝見したわ。素敵な出来栄えでしたよ。ひかるさん、そのうちに庭でお茶をしましょうね」

「お父さん、お母さん。そのまま隠岐家の庭の手入れについて契約の話をしないでくださいよ?」

 護孝さんが割って入られると、ご両親がちょっと気まずげな顔をされた。
 彼がご両親をめ、とにらんだ。

「駄目です。ひかるには『隠岐の杜プロジェクト』に専念してもらうんですから」

「ま、意地悪なこと」

 お母様のぼやきを背中にうけながら、護孝さんは彼のお祖母様がいらっしゃるというサンルームに私を連れて行った。
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