【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
「わあ……っ」

 TOKAIヒルズのオフィス棟の四六階から五八階まではホテルが入っている。

 その、スウィートのドアを開けた瞬間、つい歓声をあげた。

 花々で飾られた部屋は眼下に屋上庭園を見降ろし、都会を一望できる。
 ダイニングルームには食事が用意されており、給仕係の方が腕に白いナプキンを携えて控えていた。

 護孝さんにエスコートされて席につくと、給仕さんが皿からクロッシュと呼ばれている銀の釣り鐘型のドームを外してくれる。

 ふわりと広がった美味しそうな匂いのする湯気と、美しく盛り付けられた料理に、つい喉がごくりと動く。

「ひかるが目を輝かせてるのを見ると、なんでもしてあげたいって思うよ」

 私はえへへ……と照れ笑いをしてみた。

 ワゴンに載っている銀のワインクーラーから給仕さんがボトルを取りあげ、液体を注ぎいれたグラスを二人の前に置いてくれた。す、と後ろにさがる。

 護孝さんがグラスを掲げたので、私もならった。

「俺達の未来に」
「隠岐の杜プロジェクトに」

 今日はイタリアンのフルコース。
 スモークサーモンとクリームチーズのタルティーヌ。

「んー、鮭のしょっぱさとクリームチーズの酸っぱさが絶妙〜!」

 食が進む。
 なので食べ過ぎには注意しなければ。

 茄子とアンチョビのホットサラダ。

「焼いた茄子が絶品すぎー! 口のなかで蕩けますー」

 私がいちいちきゃっきゃするたび、護孝さんも嬉しそうだった。

「ひかるは美味そうに食うなぁ」
「はい!」

 私の数少ない美徳。
 食べ物について、好き嫌いないのだ。

 なんでも美味しい。
 太陽や水や土の恵みを受けて育ってくれて、私の命の糧になってくれる。

「全力でいただきます!」

 にこぉと笑った私を護孝さんが蕩けるような瞳でみつめていた。

 はう。
 体がカッカしてきて、慌ててスパークリングウォーターを飲み干した。

 ローストパプリカとトマトのスープパスタ。

「パプリカのスープって初めてです……」

 自然な甘み。
 そして、野菜の一つ一つが味が濃い。パスタに絡んでなんとも絶品。

「美味しいー、幸せ!」

 鯛と蕪のカルパッチョ。

「シンプルなドレッシングが、鯛がぷりぷりで野菜がパリパリなのにかかると絶品ですね〜!」

「ああ」

 お口直しはレモンと酒粕のグラニテ。

 メインはミラノ風カツレツ。

「さっくさく! イタリアンにもカツってあるんですね」

「前、子牛のカツレツ、食べたろ?」

「そうでした! あれ、イタリアンだったんですね。今日は豚さん……やわらかーい……」

 ほっぺが落ちちゃう。

 デザートはティラミス。
 コーヒーは、エスプレッソ。
 口の中がさっぱりした。
 ゆっくり味わいながらデザートと珈琲を飲めば、満足のため息が漏れた。

「あー、お腹いっぱい。美味しかったぁー、幸せ!」

 お腹を撫で撫でしている私を見て護孝さんも嬉しそうだ。
 彼は立ち上がるとテーブルを回ってきて、私を立たせた
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