【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
 三人の「母」とのあれこれに付き合ったあとは、玲奈ちゃんが目をギンギンにして待ち構えている。

「さ! 今度はブライダルエステよっ」

 護孝さんとのお見合いが決まってから五日おきに施術してもらってる。
 その甲斐あって、髪はつやつや、肌もしっとり。自分でもわかる、その手触りに玲奈ちゃんはさすがだと思う。

 うん。
 手間ひまかけてあげれば、木も人間もいい状態になるのは同じ。
 愛情は裏切らない。
 ホクホクしながら、護孝さんが手配してくれた車で彼が住んでいるタワーマンションへと向かった。

 帰ってきた護孝さんは微笑んでくれたものの、いつもより肌に艶がない。

 ベッドのなかで聞こうとした。
 ……その。
 プロポーズされてから彼の腕の中にいる機会や時間が多くなった。
 一方で、護孝さんが過保護ブラザーズの父と伯父様をどういなして、私とのデートやお泊まりをもぎとってるのか、聞いてみたい気もする。

 ふふ。

「なにか、楽しいことがあった?」

 忍び笑いのつもりが漏れてしまったらしい。護孝さんが愛おしくてたまらないという表情で優しく聞いてきれた。

 私はかいつまんで話し。

「将来、私達に娘が出来たら彼氏さんはどうやって護孝さんのガードを掻い潜るのかなぁって思って」

 すると護孝さんは
【冷酷の魔王、彼氏を凍らせる
〜傍らに孫命の過保護祖父大伯父を従えて〜】
というタイトルを捧げたいくらいの極上の笑みを浮かべた。

「俺を凌駕するほどの有能な男であることを期待してるよ」

 これは……、『娘が欲しいなら俺の屍を越えていけ』のセレブエグゼクティブイケメンハイスペックバージョンだ。

 んん。
 将来の娘ちゃんのことは未来の私に任せればいい。
 今は目の前の婚約者兼大好きな人のことだ。

「今、お仕事大変ですか?」

 遠慮がちに聞いてみた。

「ん……」

 途端、さっきまで殺気ギンギンだったのはなんだったの、というくらい眠そうな声を出す。
 まったくもう。
 私にだって、あなたの心配くらいさせてよ。

「私は大丈夫ですから。無理しないでくださいね?」

 私の言葉に、がばりと護孝さんが顔をあげた。

「それは俺に、ひかると逢うなってことか?」

 剣呑な表情を浮かべた彼に、なんとか元気な表情を浮かべて笑ってみせる。

「私はプロジェクトとお式のことに集中してられますし……、お式はお義母様や伯母や母が手伝ってくれていますから、意外と楽なんです。でも、護孝さんはホテルもあるし、大変でしょう?」

 護孝さんは忙しい。寂しいからって邪魔しちゃいけない。

 護孝さんがぎゅうううと、私を抱きこんだ。
 苦しいけど、護孝さんの想いの強さを表しているようで幸せ。

「ひかるに逢えることが俺の元気のもとなんだ……」

 必死そうな声に昏いほどの多幸感が生まれる。

「そうなんですか?」

 私ってずるいなぁ。

 聞きながら思う。
 恋心を自覚したばかりの私は、どうしても護孝さんの想いのベクトルが私に向かっているか、量はどうか量ってしまう。

「そうだよ。結婚式は女性陣に丸なげしてしまっているけど、本当は一緒に結婚式場を回り、ひかるのウエディングドレスや打ち掛けを観て回りたいのに」

 声から心底悔しがってくれているのがわかる。

「嬉しいです」

 友達の中には彼が忙しいからと、ワンオペで結婚の準備をした子がいた。

 あるいはしぶしぶ同行してくれたものの、ドレス選びやテーブルや招待状のあれこれを選ぶのにまったくやる気のない婚約者の話しとか。

 そんな話を聞いたあとだと、護孝さんがどれだけ素敵な人か。
 あらためて彼が私を好きになってくれたことに感謝したい。

「うん。だから『逢うな』なんて言わないでくれ」

 懇願させてしまった。
 私だって、貴方に焦がれてるんだぞ。

「私も、護孝さんに逢えると幸せですからね?」
「ありがとう」

 私の言葉や態度が護孝さんを幸せに出来ているのがどうしようもなく誇らしい。

「どういたしまして……ぁんっ」

 唐突に反応しちゃった。
 掛布のなかで、不埒な動きに翻弄されてしまう。

「ほんと、ひかるを愛すると元気になる」

 私の首筋に顔を寄せてささやかれる。

 さっきの疲れたような、そして寂しいような声はどこにいったんだろう。
 私を落とす気満々の艶めいた、熱の篭った声になった。

「あ、ぁ。もり、たか、さん……」

「玲奈さんのエステは次、五日後だっけ? キスマークつけても問題ないな?」

 以前、つけられてしまった翌日がエステの日で。
 きゃあきゃあ騒がれて以来、止めてもらってるんだけ、ど。

「……は、い……」

 エステまでに消えてるといいな。



 ……消えてほしくないけど。
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