【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
 翌朝、護孝さんがダイニングにあらわれた。
 あの、朝日のなか上半身裸はやめませんか。
 ギリシャのイケメンマッチョ像が生きて日本に来たら護孝さんになるんじゃないか。

「ひかる、おはよう」
「おはようございます」

 麗しくも男前の顔でにっこりと笑いかけられながら微笑まれ、どきどきしつつ返事をした。

 現在、護孝さんはタワーマンションで一人暮らし。
 メゾネットタイプで広さは、なんと約三百平米。
 地震の多い日本でそんな空間が許されていいのだろうか。

 将来、子供達と家のなかで隠れんぼができる。
 ……ではなくて。

 未だに家の中で迷子になる。
 ……でもなくて、こんな広い空間にたった一人。

「広すぎませんか?」
「そう、寂しくてたまらないんだ」

 私を後ろから抱きしめると、ちゅ、て頬に唇を寄せてくる。
 そのまま、肩に額を乗せられた。

 もともとは完全に独りになりたくて、この空間が欲しかったんだけどね。
 ひかると知ってから空虚な広さになってしまった。

 そんな独白めいた言葉にたまらなくなった。

「早く、ひかると一緒になりたい』

 どきーーっ。

「勿論、結婚まで色々と準備があるのも時間がかかるのも知っている」

 飛ばすつもりはないよ、とも。
 正直、護孝さんや私が望む通りの結婚式を明日行うことも可能だろう。
 それだけの力が護孝さんにも隠岐のお家にもある。

『時間をかける』のは、たぶん父と伯父様に娘が嫁ぐ寂しさへの心構えをさせてあげるためだ。

「だが、今日から一緒に暮らさないか」

 私を見つめる双眸が熱を孕んでる。
 うん、帰らない。
 と言いたかったけれど。

「このまま返したくない。大樹氏に事前にお伺いを立てれば、却下されるのはわかってるし」

 多賀見氏に至っては、プロジェクトにひかるを貸さないと言い出しかねない。

 との言葉に、その通りと深く納得してまう。

「造園に関する道具や資料は、人をやって持ってこさせるから」

 やっぱり父に苦手意識があるのかな。
 まあ、一般人としては、森の中でクマに遭いたくないもんね。

 私をお泊り後に同棲に持ち込んだら、父にしてみれば拉致監禁クラス。
 手負いのヒグマにパワーアップする。

「ひかるは身ひとつで来てくれればいい」
「それはダメっ」

 とっさに叫んでしまう。

「……理由は」

 護孝さんから極寒のオーラが放出されてる。
 でも、惚れた弱みかな。
 ひそめてる眉を撫でてあげたくなっちゃう。
 いやいや、ほだされちゃイカン。

 甘い声をだしても、おどかしてもダメ。

「だって身一つできたら護孝さん、あっというまに私のものを買いまくっちゃうでしょう?」

 服やアクセサリーはいわずもがな。
 それこそ、下着から化粧品。靴にバッグ。
 上から下まで、ぜーんぶハイブランドでクローゼットを埋め尽くす気だ!

「バレたか」

 護孝さんがぺろりと舌をだした。

 ……性的な要素がない仕草なのに、彼を見るたび劣情を掻きたてられる。
 飛びついて、キスしたい。
 彼の腕の中で溺れて、ベッドの海に沈んでしまいたい。
 でも。

「今日は帰ります」
「ひかる!」

 なんで、という抗議の声をあげられましても。

「父と母に、護孝さんと一緒に住むって報告してきますね」

 寂しそうな彼を一人にしたくないし、疲れてるなら傍にいてあげたい。

「……ああ」

 私が戻ってくるつもりなのがわかってくれたのか、なにかをこらえているような護孝さんに、ぎゅっと抱きしめられた。
< 90 / 125 >

この作品をシェア

pagetop