【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
 ホールに戻った。
 まだ、誰も俺には気づいていない。
 ひかるに向かって歩き始めようとした俺を、慎吾が制止した。

「待て、彼女が動いた」

 目を会場に向け直せば、意を決したようにひかるが司会のもとへ行き、マイクを奪うところだった。

「エスターク隠岐の杜庭園ホテルプロジェクトの造園ディレクター、三ツ森ひかると申します」

 にこやかな笑顔。艶やかな振袖姿。こんな時なのに、見惚れた。

「ただいま、プロジェクトの現地がなんらかの事故に遭っているとの報告を頂きました」

 途端、ざわめきが大きくなる。
 彼女から目が離せない俺に慎吾がつぶやいた。
 
「ひかるさん、あえて公表したか。上出来だな」

 もうリークされている以上、知らぬフリは得策ではない。
 
「ああ」

 どういうことだ、損失額は補填はとひかるに矢継ぎ早に怒号を投げかける輩。

 うるさい。
 助けにいきたい。

 が、俺より彼女に近い位置にいる多賀見が動かないということは静観というより、彼女の力量を信用しているのだろう。

 ひかるはにこやかな表情をくずさない。
 ざわつきが静まっていく。
 彼女が再び口を開くと皆、注視する。

「今回のプロジェクトのコンセプトに環境保全を掲げております。水害や地盤対策に加え災害に強い森を目指し、防火林の役割も持たせております。そのため、被害があった樹木は残念でありますが、近隣への二次災害はございません」


「ぼうかりんとはなんだ」

 聞きなれない言葉に、質問が出た。
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