【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
翌日。
簡易宿泊所にいた叔父が俺の前に引きずりだされた。
「叔父様、この世界はあなたには暮らしにくいでしょう。極上の宿においで頂く」
正体をなくして酔いつぶれている叔父を、見下ろす俺の目はきっと極寒だろう。
慎吾も散々煮え湯を飲まされた相手だったので、完全に無表情だ。
「連れていけ」
俺が命じると、屈強の男達が叔父を担ぎ上げた。
ついで犯人として逮捕された男に面会を求めた。
男は三ツ森大樹事務所の従業員で、一時期ひかるの恋人でもあった男だという。
ひかるに近づき、彼女に取り入り三ツ森大樹の後継者になろうと画策していたが。
友人に、ひかるへ近づいた理由と彼女を堕とした自慢をしていたところを、とうの本人に訊かれて別れを告げられたらしい。
「会いたかったよ」
元々、ひかるを傷つけた男などのうのうと生存させておくつもりはなかった。
「探す手間が省けた」
ぎりぎりと音がしそうなほど拳を握り込んでいる俺を見た慎吾が呟く。
「犯人君も阿呆だなぁ」
ひかるを傷つける者は、誰一人許さない。
男と面会した。
「あの女はなぁ、実力なんかねぇんだよ。単なる親の七光り! それだって俺の実力を搾取しやがったんだよ、親子してな!」
ここまで勝手な思い込みを出来るのは病気かなにかか?
慎吾に訊ねれば精神鑑定は『まとも』なのだそうだ。
「ハ! どうせあんたも、あの女のバックグラウンドに惹かれて婚約したクチだろうが!」
たしかにあっているな。
彼女の素晴らしさに惹かれたのは事実。
ほかにも三ツ森氏が娘を溺愛しているとか、
ひかると別れたことを逆恨みされて不当に解雇されただの、喚き散らした。
ふ、と笑いがこみあげる。
「なにがおかしい!」
男が激高し、面会室のアクリルの仕切り板を激しく叩いて看守に取り押さえられる。
「いいだろう、身の程を教えてやる」
慎吾が渡した資料を、俺は静かに読み上げた。
ひかると知り合ってから、彼女の経歴を調べてみた。
三ツ森では大樹氏しか出てこないが、名字を空欄にして『光』で調べると、かなりの数がヒットした。
「二〇××年、〇〇市主催盆栽コンクール 選外。優秀賞は光。翌年、△県庭園コンクール選外。最優秀庭園賞は光。……」
造形コンテストから洋風ガーデンのコンテストまで、試行錯誤した軌跡がわかって、彼女のことが愛おしくなった。
そして、男との見えない因縁もみつけた。
読み上げていくうち、どんどん男の顔色が悪くなっていく。どす黒くから青く、そして紙のように白く。
「そ、それがどうしたっ! 言っとくがそいつはいっつも失格くらうんだ、迷惑な賑やかしだぜ」
俺を前にクズは虚勢を張った。
「認めるのが怖いんだろう? 貴様が応募したコンクール、最優秀に輝いたのが誰だったか」
『幻の光』とコンクール関係者の間では噂になっていたらしく、彼女の身元確認に躍起となっていたマニアもいるらしい。
ひかる、隠れてくれてよかった。
だが、彼女の才能を知っていたこいつだけは気づく。
知らないフリをしていただけだ、ひかるに比べて彼女の足元にも及ばない自分を。
知ってしまえば、あの天才二人の傍にいられなくなるから。
自分が嗤っているのがわかる。
男の体がぐらりと傾いだ。
「共通しているのは『光』が申請した全て架空の住所であったこと」
三ツ森造園事務所と一番地違い。
謀のできない彼女の性格が、本当に好きだ。
「その為、次席が毎回繰り上がってる。だから、光の名前は既に伝説級だ」
「名声なんて、世に出てナンボだろうが!」
語るに堕ちたな。
お前が根こそぎにした自尊心のために、彼女は仮面に隠れなければならなかった。
けれど、彼女は誰の目からも解き放たれ、自由の息吹と羽ばたきを手に入れた。
「特筆すべきは、全てエントリーシートが三ツ森造園事務所のある一つのIPアドレスから発信されてるんだ」
男をにらむ。
視線で殺せるものなら、殺してやりたい。
「……三ツ森ひかるのな」
わなわな。
いまさら、天才を地べたに引きずりおろした罪に気づいても遅い。
「彼女こそ親の七光も、親戚のコネも不要だと思ってるんだよ。大樹氏は公正な方だ。貴様が技術がなくても誠実な人間であれば、事務所を解雇しなかったろう」
三ツ森氏からは欠勤記録、同僚やクライアントとの揉め事、借金。
奴のしたことの記録を借りてきた。探偵を雇って調べさせ、ウラも取れている。
男は、がっくりと首を落とす。
「CEO、お時間です」
慎吾が告げてきた。
俺は立ち上がりしな、むしろ楽しげに言ってやった。
「覚えておけ。これだけのことをしてもらった相応の礼はする。出てきたら、特別に『祝って』やろう。大丈夫だ。ここの人間にも、おまえのことはきっちり頼んである」
男が無様にガタガタと震え出した。
知るか。
「せいぜい『別荘』生活を楽しんでおけ」
簡易宿泊所にいた叔父が俺の前に引きずりだされた。
「叔父様、この世界はあなたには暮らしにくいでしょう。極上の宿においで頂く」
正体をなくして酔いつぶれている叔父を、見下ろす俺の目はきっと極寒だろう。
慎吾も散々煮え湯を飲まされた相手だったので、完全に無表情だ。
「連れていけ」
俺が命じると、屈強の男達が叔父を担ぎ上げた。
ついで犯人として逮捕された男に面会を求めた。
男は三ツ森大樹事務所の従業員で、一時期ひかるの恋人でもあった男だという。
ひかるに近づき、彼女に取り入り三ツ森大樹の後継者になろうと画策していたが。
友人に、ひかるへ近づいた理由と彼女を堕とした自慢をしていたところを、とうの本人に訊かれて別れを告げられたらしい。
「会いたかったよ」
元々、ひかるを傷つけた男などのうのうと生存させておくつもりはなかった。
「探す手間が省けた」
ぎりぎりと音がしそうなほど拳を握り込んでいる俺を見た慎吾が呟く。
「犯人君も阿呆だなぁ」
ひかるを傷つける者は、誰一人許さない。
男と面会した。
「あの女はなぁ、実力なんかねぇんだよ。単なる親の七光り! それだって俺の実力を搾取しやがったんだよ、親子してな!」
ここまで勝手な思い込みを出来るのは病気かなにかか?
慎吾に訊ねれば精神鑑定は『まとも』なのだそうだ。
「ハ! どうせあんたも、あの女のバックグラウンドに惹かれて婚約したクチだろうが!」
たしかにあっているな。
彼女の素晴らしさに惹かれたのは事実。
ほかにも三ツ森氏が娘を溺愛しているとか、
ひかると別れたことを逆恨みされて不当に解雇されただの、喚き散らした。
ふ、と笑いがこみあげる。
「なにがおかしい!」
男が激高し、面会室のアクリルの仕切り板を激しく叩いて看守に取り押さえられる。
「いいだろう、身の程を教えてやる」
慎吾が渡した資料を、俺は静かに読み上げた。
ひかると知り合ってから、彼女の経歴を調べてみた。
三ツ森では大樹氏しか出てこないが、名字を空欄にして『光』で調べると、かなりの数がヒットした。
「二〇××年、〇〇市主催盆栽コンクール 選外。優秀賞は光。翌年、△県庭園コンクール選外。最優秀庭園賞は光。……」
造形コンテストから洋風ガーデンのコンテストまで、試行錯誤した軌跡がわかって、彼女のことが愛おしくなった。
そして、男との見えない因縁もみつけた。
読み上げていくうち、どんどん男の顔色が悪くなっていく。どす黒くから青く、そして紙のように白く。
「そ、それがどうしたっ! 言っとくがそいつはいっつも失格くらうんだ、迷惑な賑やかしだぜ」
俺を前にクズは虚勢を張った。
「認めるのが怖いんだろう? 貴様が応募したコンクール、最優秀に輝いたのが誰だったか」
『幻の光』とコンクール関係者の間では噂になっていたらしく、彼女の身元確認に躍起となっていたマニアもいるらしい。
ひかる、隠れてくれてよかった。
だが、彼女の才能を知っていたこいつだけは気づく。
知らないフリをしていただけだ、ひかるに比べて彼女の足元にも及ばない自分を。
知ってしまえば、あの天才二人の傍にいられなくなるから。
自分が嗤っているのがわかる。
男の体がぐらりと傾いだ。
「共通しているのは『光』が申請した全て架空の住所であったこと」
三ツ森造園事務所と一番地違い。
謀のできない彼女の性格が、本当に好きだ。
「その為、次席が毎回繰り上がってる。だから、光の名前は既に伝説級だ」
「名声なんて、世に出てナンボだろうが!」
語るに堕ちたな。
お前が根こそぎにした自尊心のために、彼女は仮面に隠れなければならなかった。
けれど、彼女は誰の目からも解き放たれ、自由の息吹と羽ばたきを手に入れた。
「特筆すべきは、全てエントリーシートが三ツ森造園事務所のある一つのIPアドレスから発信されてるんだ」
男をにらむ。
視線で殺せるものなら、殺してやりたい。
「……三ツ森ひかるのな」
わなわな。
いまさら、天才を地べたに引きずりおろした罪に気づいても遅い。
「彼女こそ親の七光も、親戚のコネも不要だと思ってるんだよ。大樹氏は公正な方だ。貴様が技術がなくても誠実な人間であれば、事務所を解雇しなかったろう」
三ツ森氏からは欠勤記録、同僚やクライアントとの揉め事、借金。
奴のしたことの記録を借りてきた。探偵を雇って調べさせ、ウラも取れている。
男は、がっくりと首を落とす。
「CEO、お時間です」
慎吾が告げてきた。
俺は立ち上がりしな、むしろ楽しげに言ってやった。
「覚えておけ。これだけのことをしてもらった相応の礼はする。出てきたら、特別に『祝って』やろう。大丈夫だ。ここの人間にも、おまえのことはきっちり頼んである」
男が無様にガタガタと震え出した。
知るか。
「せいぜい『別荘』生活を楽しんでおけ」