不完全な完全犯罪ZERO
女子会潜入
勢い良く出掛けたままなら良かった。
カフェに入った途端、急に木暮が色気付いた。
初めての女装での外出、しかもあちこち可愛い娘だらけ……
日頃女っ気の全くない木暮は舞い上がってしまったのだった。
そうだった。
俺は肝心なことを忘れていた。
木暮の高校は男子校だったのだ。
俺はそんな木暮を精一杯フォローしながら、何とか彼女達の隣の席に着いた。
聞き耳を立てながらレコーダーのスイッチを入れる。
これでひとまず終了。
後は真っ赤になっている木暮をなだめなくてはいけない。
俺は小さくため息をついた。
「ところでさー。原っぱって此処出身だったっけ?」
誰かが言った。
(始まったー!)
って思った。
葬儀は約一週間前だ。
当然と言える発言だったのだ。
(あれっ!? 皆知らないのかな?)
そう言えば不思議だ。
斎場は此処だった。
だから此処の出身のはずなのだ。
それなのに何故あんなことを言ったこだろうか?
ふとそんな疑問が浮かんだ。
「違うと思うよ」
もう一人が言った。
その言葉に興味を持った俺は更に聞き耳を立てた。
「確か此方に母親が住んで居るとか居ないとか?」
「どっちなのよ」
「うーん、解らない」
(違う、母親だけじゃない。金魚の糞状態だった木暮を原っぱは知っていたのに……)
俺は影の薄い原田学が急に哀れになっていた。
「でも情けない無いね、あんなチョンボで死ぬなんて」
「チョンボ?」
「そうだよ、大チョンボ。電車降りる時に何かが挟まって引き摺られたってことらしいよ」
(えっ!?)
俺は愕然とした。
原田守は上りの電車からゴールドスカルのペンダントヘッドを掴まれた状態で下ろされたのだ。
何故そのことを知らないのか不思議だった。
ま、それは警察でも情報が得られなかった事実だからしかたないことだった。
「へー、知らなかった。私全く興味なかったからね。でも一体誰から聞いたの?」
「確か麻衣(まい)だった。そうよね麻衣?」
「えっ、何の話?」
やっと登場した麻衣と名乗る女性。
彼女だった。
MAIさんの名前は麻衣と言うのだそうだ。
叔父が見ていたネットに書いてあった。
「さっきから何の話してるの?」
「だからさー、原っぱがどんな死に様かってことよ」
「止めようよ、そんな話。お酒が不味くなる」
あっけらかんと彼女が言う。
「あら、いいの? 確か麻衣って原っぱの彼女じゃなかったっけ?」
「変なこと言わないで、彼が気を悪くするわ。もしかしたらあんた達ね。デタラメな噂流したのは?」
「デタラメねぇ」
そう言った女性は笑っているようにも思えた。
『実は俺の彼女、原田の恋人だったらしいんだ。何だか気になってさ。だから君達が何か知っているのかなと思ってさ』
一週間前此処でそう言ってた麻衣の彼氏。
噂の出所はやはり彼女達の誰かなんだろうか?
でも俺は知っている。
ボンドー原っぱの彼女が誰なのかと言うことを。
それは此処にいる麻衣と名乗る女性だった。
(あれっ、本当にそうなのか? 証拠はあの写真だけだ。そうだ、ボンドー原っぱの言葉を鵜呑みにしただけかも知れない?)
それに気付いて俺は急に意気消沈した。
「そう言えば麻衣? 仕事は大丈夫なの?」
(仕事!? そう言えば、売れない時期を支えてくれたとか、だったな。彼女の仕事は確か、スキンヘッドもお得意なヘアーメイクアーチストだなったな?)
「あっ、大丈夫よ。母が行ってくれてるから」
彼女はそう言った。
(へえー、親子でできる仕事か? そう言うのいいな)
俺は単純にそう思っていた。
次の言葉を聞くまでは……
「やっぱり美容師は良いわよね。麻衣のとこ親子二代だから、試験も簡単だったんじゃないの」
「まあね、だって小さい時から叩き込まれていたからね。私の夢も知っていたから応援したくなったんだって」
さも当たり前のようにMAIさんが言った。
「だから彼に尽くせる訳か? 東京の美容院も盛況らしいし……」
「うん。でも元彼の方が本当は良かったみたい」
「元彼って原っぱ?」
「違うよ。全くもうー」
MAIさんはウンザリって感じで言った。
(そう言えば叔父さんが、ヒモのことを髪結い屋の女房とか言っていたな。昔っからの言い伝えらしいけど、今でもそうなんだ)
俺はMAIさんを彼氏思いの良い奴だと思った。
でも……
次の瞬間、あのボンドー原っぱの言葉が脳裏をかすめた。
『気が付いたらこんな頭になっていた』
と言ったことを――。
(嘘だろ? 嘘に決まっている)
俺はあの時そう思っていた。
第一、知らない間にそんな頭になっていたとしたら怖すぎる!?
(でも、もしかしたら本当かもな?)
そう……
ボンドー原っぱの怖がり方が尋常ではなかったからだ。
(そうだよ。ヘアーメイクアーチストならスキンヘッドは出来る。だから木暮の兄貴も……)
その途端に俺の頭の中で何かが弾けた。
(えっ、嘘ー!? ヘアーメイクアーチストって美容師のことだったのか!?)
次の瞬間俺は震え上がった。
「あっ、あっー!?」
俺は大きな声を張り上げて、男に戻っていた。
「えっ何? 何!?」
「今の何!?」
店内が急に騒がしくなった。
(あ、ヤバい!?)
そう思っても後の祭りだった。
木暮も俺の態度に目をひん剥き、声も出ないほど驚いていた。
俺は我に返り、慌てて木暮の手を引いて席を立とうとした。
「ちょっと待って」
MAIさんが俺達を阻んでいた。
俺はそれを払い除けようとして、あろうことかMAIさんのお腹を触っていた。
「あっ!?」
それは凄まじいほどの衝撃だった。
俺は木暮を連れて外へと飛び出した。
店内中に、男子禁制の女子会に潜入したことがバレバレになる。
それでも俺はそうさずにはいられなかったのだ。
あの衝撃が何なのか……
俺はまだMAIさんの哀しみを知るよしもなかった。
店の前で叔父の車を探した。
急いで其処から離れたかったのだ。
でもこんな時に限って見つからない。
俺は途方に暮れて地べたに座り込んだ。
其処へやっと叔父の車がやって来た。
俺はガタガタ震えながら車に乗り込んだ。
「叔父さん悪い。警察に行って!!」
俺は声を張り上げた。
「そんな格好で行ける訳ないだろう!! それとも退学になりたいんか!?」
珍しく叔父が怒鳴っていた。
「彼処には同僚もいるんだ。少しは冷静になれ。瑞穂、今は駄目だ。一旦家に帰ろう」
その後で叔父は俺は諭すように言った。
でも、聞く耳を持っていなかった俺は暴れた。
「木暮君、何をしてる。瑞穂を押さえろ!」
仕方なく木暮は俺の体を抱き締めた。
木暮の鬘が鼻を擽る。
その瞬間みずほを思い出して、俺は木暮に抱き付いていた。
「気持ちワルー」
木暮が頭を振っている。
それでも、しっかり抱いていてくれた。
ふと我に返る。
アパートの小さな風呂の中で、木暮が心配そうに覗き込んでいた。
背中合わせに入ったバスタブから湯が溢れ、少しずつ気持ちが解れていく。
小窓から外を見ると、あの日と同じように月が照らしていた。
涙と寒気と恐怖。
それでも、それらが交互に俺に襲いかかってくる。
風呂から上がって事務所に行くと、原田守の告別式であった刑事が俺を待っていてくれた。
「コイツは俺の元同僚の桜井だ」
そう叔父から紹介された。
「あっ、どうも」
俺はそう言うのがやっとだった。
俺はまず、録音したテープをその桜井刑事に聴かせた。
「これは?」
桜井刑事が言った。
「彼女達の会話を無断で録音しました。証拠にはなりませんが、参考になるかと思いまして」
この手の類いは裁判での証拠採用には程遠い。
それ位判っていた。
それでも聴いてもらいたかったのだ。
「思い出したのです。ボンドー原っぱが、あの日言った言葉を。彼は『気が付いたらこんな頭になっていた』と言っていました。その瞬間、美容師だったらスキンヘッドに出来ると思ったのです」
俺はやっと言いたいことを言った。
「名前は麻衣。美容師で、多分この地域で母親が開業していたはずです」
「容疑者はこの人だと言いたいのかな?」
刑事の言葉に俺は頷いた。
カフェに入った途端、急に木暮が色気付いた。
初めての女装での外出、しかもあちこち可愛い娘だらけ……
日頃女っ気の全くない木暮は舞い上がってしまったのだった。
そうだった。
俺は肝心なことを忘れていた。
木暮の高校は男子校だったのだ。
俺はそんな木暮を精一杯フォローしながら、何とか彼女達の隣の席に着いた。
聞き耳を立てながらレコーダーのスイッチを入れる。
これでひとまず終了。
後は真っ赤になっている木暮をなだめなくてはいけない。
俺は小さくため息をついた。
「ところでさー。原っぱって此処出身だったっけ?」
誰かが言った。
(始まったー!)
って思った。
葬儀は約一週間前だ。
当然と言える発言だったのだ。
(あれっ!? 皆知らないのかな?)
そう言えば不思議だ。
斎場は此処だった。
だから此処の出身のはずなのだ。
それなのに何故あんなことを言ったこだろうか?
ふとそんな疑問が浮かんだ。
「違うと思うよ」
もう一人が言った。
その言葉に興味を持った俺は更に聞き耳を立てた。
「確か此方に母親が住んで居るとか居ないとか?」
「どっちなのよ」
「うーん、解らない」
(違う、母親だけじゃない。金魚の糞状態だった木暮を原っぱは知っていたのに……)
俺は影の薄い原田学が急に哀れになっていた。
「でも情けない無いね、あんなチョンボで死ぬなんて」
「チョンボ?」
「そうだよ、大チョンボ。電車降りる時に何かが挟まって引き摺られたってことらしいよ」
(えっ!?)
俺は愕然とした。
原田守は上りの電車からゴールドスカルのペンダントヘッドを掴まれた状態で下ろされたのだ。
何故そのことを知らないのか不思議だった。
ま、それは警察でも情報が得られなかった事実だからしかたないことだった。
「へー、知らなかった。私全く興味なかったからね。でも一体誰から聞いたの?」
「確か麻衣(まい)だった。そうよね麻衣?」
「えっ、何の話?」
やっと登場した麻衣と名乗る女性。
彼女だった。
MAIさんの名前は麻衣と言うのだそうだ。
叔父が見ていたネットに書いてあった。
「さっきから何の話してるの?」
「だからさー、原っぱがどんな死に様かってことよ」
「止めようよ、そんな話。お酒が不味くなる」
あっけらかんと彼女が言う。
「あら、いいの? 確か麻衣って原っぱの彼女じゃなかったっけ?」
「変なこと言わないで、彼が気を悪くするわ。もしかしたらあんた達ね。デタラメな噂流したのは?」
「デタラメねぇ」
そう言った女性は笑っているようにも思えた。
『実は俺の彼女、原田の恋人だったらしいんだ。何だか気になってさ。だから君達が何か知っているのかなと思ってさ』
一週間前此処でそう言ってた麻衣の彼氏。
噂の出所はやはり彼女達の誰かなんだろうか?
でも俺は知っている。
ボンドー原っぱの彼女が誰なのかと言うことを。
それは此処にいる麻衣と名乗る女性だった。
(あれっ、本当にそうなのか? 証拠はあの写真だけだ。そうだ、ボンドー原っぱの言葉を鵜呑みにしただけかも知れない?)
それに気付いて俺は急に意気消沈した。
「そう言えば麻衣? 仕事は大丈夫なの?」
(仕事!? そう言えば、売れない時期を支えてくれたとか、だったな。彼女の仕事は確か、スキンヘッドもお得意なヘアーメイクアーチストだなったな?)
「あっ、大丈夫よ。母が行ってくれてるから」
彼女はそう言った。
(へえー、親子でできる仕事か? そう言うのいいな)
俺は単純にそう思っていた。
次の言葉を聞くまでは……
「やっぱり美容師は良いわよね。麻衣のとこ親子二代だから、試験も簡単だったんじゃないの」
「まあね、だって小さい時から叩き込まれていたからね。私の夢も知っていたから応援したくなったんだって」
さも当たり前のようにMAIさんが言った。
「だから彼に尽くせる訳か? 東京の美容院も盛況らしいし……」
「うん。でも元彼の方が本当は良かったみたい」
「元彼って原っぱ?」
「違うよ。全くもうー」
MAIさんはウンザリって感じで言った。
(そう言えば叔父さんが、ヒモのことを髪結い屋の女房とか言っていたな。昔っからの言い伝えらしいけど、今でもそうなんだ)
俺はMAIさんを彼氏思いの良い奴だと思った。
でも……
次の瞬間、あのボンドー原っぱの言葉が脳裏をかすめた。
『気が付いたらこんな頭になっていた』
と言ったことを――。
(嘘だろ? 嘘に決まっている)
俺はあの時そう思っていた。
第一、知らない間にそんな頭になっていたとしたら怖すぎる!?
(でも、もしかしたら本当かもな?)
そう……
ボンドー原っぱの怖がり方が尋常ではなかったからだ。
(そうだよ。ヘアーメイクアーチストならスキンヘッドは出来る。だから木暮の兄貴も……)
その途端に俺の頭の中で何かが弾けた。
(えっ、嘘ー!? ヘアーメイクアーチストって美容師のことだったのか!?)
次の瞬間俺は震え上がった。
「あっ、あっー!?」
俺は大きな声を張り上げて、男に戻っていた。
「えっ何? 何!?」
「今の何!?」
店内が急に騒がしくなった。
(あ、ヤバい!?)
そう思っても後の祭りだった。
木暮も俺の態度に目をひん剥き、声も出ないほど驚いていた。
俺は我に返り、慌てて木暮の手を引いて席を立とうとした。
「ちょっと待って」
MAIさんが俺達を阻んでいた。
俺はそれを払い除けようとして、あろうことかMAIさんのお腹を触っていた。
「あっ!?」
それは凄まじいほどの衝撃だった。
俺は木暮を連れて外へと飛び出した。
店内中に、男子禁制の女子会に潜入したことがバレバレになる。
それでも俺はそうさずにはいられなかったのだ。
あの衝撃が何なのか……
俺はまだMAIさんの哀しみを知るよしもなかった。
店の前で叔父の車を探した。
急いで其処から離れたかったのだ。
でもこんな時に限って見つからない。
俺は途方に暮れて地べたに座り込んだ。
其処へやっと叔父の車がやって来た。
俺はガタガタ震えながら車に乗り込んだ。
「叔父さん悪い。警察に行って!!」
俺は声を張り上げた。
「そんな格好で行ける訳ないだろう!! それとも退学になりたいんか!?」
珍しく叔父が怒鳴っていた。
「彼処には同僚もいるんだ。少しは冷静になれ。瑞穂、今は駄目だ。一旦家に帰ろう」
その後で叔父は俺は諭すように言った。
でも、聞く耳を持っていなかった俺は暴れた。
「木暮君、何をしてる。瑞穂を押さえろ!」
仕方なく木暮は俺の体を抱き締めた。
木暮の鬘が鼻を擽る。
その瞬間みずほを思い出して、俺は木暮に抱き付いていた。
「気持ちワルー」
木暮が頭を振っている。
それでも、しっかり抱いていてくれた。
ふと我に返る。
アパートの小さな風呂の中で、木暮が心配そうに覗き込んでいた。
背中合わせに入ったバスタブから湯が溢れ、少しずつ気持ちが解れていく。
小窓から外を見ると、あの日と同じように月が照らしていた。
涙と寒気と恐怖。
それでも、それらが交互に俺に襲いかかってくる。
風呂から上がって事務所に行くと、原田守の告別式であった刑事が俺を待っていてくれた。
「コイツは俺の元同僚の桜井だ」
そう叔父から紹介された。
「あっ、どうも」
俺はそう言うのがやっとだった。
俺はまず、録音したテープをその桜井刑事に聴かせた。
「これは?」
桜井刑事が言った。
「彼女達の会話を無断で録音しました。証拠にはなりませんが、参考になるかと思いまして」
この手の類いは裁判での証拠採用には程遠い。
それ位判っていた。
それでも聴いてもらいたかったのだ。
「思い出したのです。ボンドー原っぱが、あの日言った言葉を。彼は『気が付いたらこんな頭になっていた』と言っていました。その瞬間、美容師だったらスキンヘッドに出来ると思ったのです」
俺はやっと言いたいことを言った。
「名前は麻衣。美容師で、多分この地域で母親が開業していたはずです」
「容疑者はこの人だと言いたいのかな?」
刑事の言葉に俺は頷いた。