氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
 生まれは一般家庭。美人な訳でもスタイルが良い訳でも無いし、特別な才能も無くもちろんお金持ちでも無い。

『私は絶対これだけは譲れない』と必死になった事も無く、高校大学、就職まで、自分の能力で何とかなりそうな無難なところを選んできた。
 自分の周りの大多数の人間は似たり寄ったりだったし、それが普通だと思っていた。
 別に努力してこなかった訳では無いが、生ぬるい環境の中で生きて来たんだと思う。
 
(なんせ、面と向かって君と結婚してもメリットが無いとまで言われたのは事実だしね……)

 赤井に言われた言葉を苦々しく噛みしめていた綾は間宮が零した言葉をはっきりと聞き取れなかった。
 
「……君はもう少し自分の魅力を分かった方がいいな」
 
「あ、ごめんなさい、今?」

「いや……だから彼は暫く交渉の関係でオフィスビルに通うだろうし、付きまとわれる可能性は十分ある」

「えぇ……嫌過ぎる」
 
 赤井は綾が付きまとっていると言う噂を流した張本人なのに、酷すぎないか。
 彼の自分本位過ぎる言動は気持ち悪くて、思い出しただけでゾッとする。
 でも、彼に再び会った時に上手くかわせる気がしない。

「どうしたら……」
 
 不安で一杯になる綾を慮ってか間宮は心配気な顔で見つめてくる。
 
「一つ、いい考えがあるんだけど……ああ、でもこれは綾さんが同意してくれないと難しいかな」

「えっ、何ですか?教えてください!」

 藁にもすがる思いで身を乗り出した彩だったが、彼の放った言葉にそのままの姿勢で固まる事になる。
 
「どうだろう――僕と本当に恋人になるって言うのは」
 
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