氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
ふたりの休日
「……よし、オッケーかな」

 綾はアパートの自室でひとり、全身を姿見に写し、服装の最終チェックを行う。
 
 悩みに悩んで決めたコーディネートは浅めのVネックのシンプルなホワイトのブラウスにふんわりとした素材感のパステルブルーのミモレスカートだ。冷房対策にオフホワイトのカーディガンも準備した。
 自分の中では大人っぽさと可愛らしさが上手く取り入れられたと思っている。
 メイクもコンプレックスの童顔を誤魔化すようにアイラインもしっかり入れるが、服装にも今日出かける場所にもそぐわないのであまり派手にならない程度にしておく。
 
「しっかし、こんな事になるとはね……」

 未だに自分の置かれた状況が信じられない。
 
 赤井に遭遇し、間宮に助けられた日から既に10日ほど経っていた。

 高級イタリアンレストランの個室であの後間宮が提案してきたのが『本当』に『結婚を前提にした恋人同士』――の『フリ』をして、ほとぼりが冷めるまで様子を見てはどうか、という事だった。

『恋人の――フリ、ですか?』

『そう。あの様子だと彼は君の言っていることを疑って接触してくる可能性もあるだろう?嘘だってわかったら彼はますます君に付きまとうと思う。僕とラブラブだってアピールしておけば、彼も諦めるんじゃないか』 

『ら……』

 およそ彼から出てきそうも無い「ラブラブ」という単語に驚きつつ気を取り直し
 
『いえ、それだと間宮さんに一方的にご迷惑をおかけしちゃうので、流石にお願いできません』
 
 とお断りしようとした。のだが……

『それじゃあ、こちらのお願いも聞いて貰えれば綾さんも心苦しく感じないかな』
 
 とサラリと交換条件にされたのは再来月にあるベリーヒルズビレッジ開業5周年のパーティで間宮のパートナーとして出席してくれないか、という事だった。
 
 なんでもそういったパーティは基本的にパートナーと出席することが基本らしい。
 
『生憎僕にはそういう相手がいなくてね、周りにナメられないように、綾さんがパートナーとして出席してくれると助かるんだけど』

 綾は最初とんでも無いと固辞しようした。
 そんな庶民が想像も付かないような煌びやかな場所、着る服も無いし、マナーも立ち居振る舞いもわからない。自分が間宮のパートナーとして同行しても彼に恥をかかせるだけだ。
 
 すると彼は余裕の笑みで言った。『百聞は一見に如かず』じゃなかったっけ?と。
< 22 / 72 >

この作品をシェア

pagetop