氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
 今日の彼の服装は、グレーのラインが細いピッチで入ったストライプシャツにブラックデニム、ホワイトスニーカーを合わせている
 
 いつもビシッと決まった高級スーツ姿しかみてきたことがなかったので、こういうカジュアルな格好をしている彼は新鮮だ。結局のところ恐ろしくイケメンという事に変わりはないのだが。
 折ったシャツから出ている腕にほどよくついた筋肉にドキリとしてしまう。
 
「おはよう、綾。乗って」 

「お、おはようございます。失礼します」

 そんな彼が爽やかな笑顔を湛えながら流れるようなしぐさで助手席のドアを開けてくれるのだから、自分が彼の特別な人間になったような錯覚に陥る。
 
 頬が紅潮するのがバレないように助手席に座りシートベルトを締めた。
 
「今日は君の事を僕の大事な恋人だと思って過ごすから、君もそのつもりでいて」

 間宮は自分もシートベルトを締めると、確認するように視線を送ってくる。
 
「は、はい。よろしくお願いします……」
 
「OK ……綾の今日の服装、可愛いね。スカートの色も綺麗で君に似合ってる」

 早速だ。今までもそうだったが、彼の女性の扱いのスキルは卓越していると思う。さらりと違和感なく褒めてくる。
 これだけの容姿に加え、一流企業の管理職。海外留学経験もあると言っていた。
 きっと、付き合う女性に困った事は無く、その経験がものを言っているのだろう。
 
「……ありがとうございます。間宮さんこそ、いつもと違う雰囲気でビックリしちゃいました」

 恋人同士のフリをするのだから、気軽に呼び合おうと言われ、間宮は早々に「綾さん」から「綾」と呼び方を変えていた。
 一方綾の方は恐縮して名前で呼ぶことが出来ず「間宮さん」のままだ。
 そもそも一時的な関係なのにそこまでする必要は無いと思っていたのもある。 

「水族館なんて大人になってから行った事無かったからね、どんな服装にしようかと思ったけど大丈夫だったかな?」

(デートの定番スポットだから、きっと来たことがあるだろうと思っていたけれど、そうでもないのかな)
 
「はい!爽やかでカッコいいです」
 
 心に浮かんだ引っ掛かりを誤魔化すように明るく言うと、彼は良かった、と少し照れたような顔をした。
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