氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
「いたいた!」

 つい早足になってしまったのはペンギンの展示コーナーだ。
 
 この水族館は国内でものペンギン飼育数が多い事で知られ、種類も多い。
 目の前の大きな展示水槽にも数種類のペンギンたちが各々自由に泳いだり毛づくろいをしたり、ただじっとしていたりしている。
 
「たくさんいるんだね」

 水槽のガラスにかぶり付く綾につられるように間宮もペンギン達に視線をやる。
 
「綾はペンギンが好きなの?」

「はい。子供の頃から好きなんです」

 昔からずんぐりしたフォルムや歩き方や、鳥類ならではの何を考えているか分からない雰囲気が好きなのだ。
 
「特に好きなのがこの子なんです。アデリーペンギン」

 綾のお気に入りは小ぶりの大きさの2トンカラー、つぶらな目の周りが白く縁どられているような顔つきが特徴だ。
 
「この子って関東ではここでしか見れないらしいんですよ。だからずっと来てみたくて」

 隅っこの方でぼんやりとしている子に近づくと、こちらに気が付いたのかコトコトとこちらに近寄ってくる。
 
「かっ……可愛い!」

 厚いガラス越しだが近づいてきて嘴をコツコツしてくれるペンギンに萌えながら夢中でスマートフォンで写真を撮りまくる。こんな近くで見られるなんて感激だ。
 暫くペンギンとの時間を堪能し、満足した綾がハッと気づくと、間宮は隣で黙ってこちらを見ていた。
 
(しまった!すっかり『ペンギンと私』状態になって一人ではしゃいじゃった)

 きっと子供みたいと呆れられただろう。慌ててスマートフォンをショルダーバックに戻す。
 
「す、すみません、ずっと見ちゃってて、退屈しちゃい……」
 
 ましたか?と、言おうとしたのだが、最後まで言えなかった。
 自分の左手が間宮の手に取られて、キュッと握られたのだ。
 
「全然。可愛いから退屈しなかった」
 
「間宮さん……」
 
「ん……でも、ちょっとペンギンに妬いたかもな。君の視線をあんなに独占して」
 
 と繋いだ手を引き寄せ、身体を寄せると自らの額を綾の頭頂部に乗せ甘えるように言う。
 
「……!」

 綾の心臓が跳ね上がると同時に、少し離れたところから「キャー」と黄色い声が上がる。
 いつの間にかふたりのやり取りが若い女性のグループに注目されていたらしい。

(こ、ここでラブラブぶりをアピールする必要はないんですよ……!?)

 さっきまで可愛い顔でこちらを見ていたペンギンも気まずげに視線を外した気がする。
 
「そ、そろそろ出ましょうか」と真っ赤になった綾は、繋がれた間宮の手を引きながら慌ててその場を離れたのだった。
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