氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
海斗は綾に初めて会った時、あの場所を偶然見つけたと説明したが、本当は存在を知っていた。
あの日はひとりで外の空気を吸いたくなり、気まぐれに訪れただけ。先客の存在に、しかたないとその場から去ろうとした。
でも自分に気付き驚いた彼女は膝に乗せていた弁当をひっくり返してしまう。
落ちてしまった弁当を片付けいる時の悲しそうな顔と言ったら……
(気の毒だったけど可愛かったな)
神様のバチが当たると慌てていた様子を思い出す。
綾は小さめの体つきと黒目がちな瞳がなんとも小動物を思わせる。
アメリカに留学していた時に公園でよく見かけたリスのようだと思う。
彼女が美味しそうにおにぎりやパンを食べていると、それこそリスがクルミでも齧っているようで可愛らしい。
時間が出来ると箱庭に出向き、その姿を見ながら自分も何となく休憩するという時間が海斗の癒しになっていた。
そうしているうちに『膝に乗せて手ずから食べさせたらどんな感じだろう』という少々危険な想像が浮かぶようになり、彼女に惹かれていることを自覚していった。
食べ物を大事にしているところも好感が持てるし、フワフワとした可愛い見た目に反して古風な考えや真面目で謙虚な所もいい。
海斗に対しても最初から非常にフラットに接し、耳障りの良い声で他愛の無い話をする。
話が途切れても無理に話そうとはしないが、その間すら心地いい。
自分に対しての態度は、色々詮索されたく無い海斗にとってはありがたかった。――初めのうちは。
彼女への好意を自覚してからは、この空気感のままではダメだと思うようになった。
もっと特別な存在になりたい。
昼休み仲間としか思っていなさそうな彼女にいきなり告白しても困惑されそうだ。
今までの関係性が壊れ、彼女との平和な時間が失われるのは怖い。
どこの恋愛小説かと自分に突っ込みを入れたくなるような心境になった。
仕事では常に冷静に的確な判断が出来るはずなのに、何も動き出せない。
自分を男と意識してもらってから告白したい。どうしたらいいかと思いながら悶々としていた。
そんな時に起こったのが綾の元カレである赤井の件だった。
あの日、本当は綾を食事にでも誘えたらと思っていた。
考えてみたら彼女のプライベートの連絡先も知らない。
まずはお互いの連絡先の交換からだな……と思考を巡らせながらオフィスビルを出ようとした時、帰宅しようとする彼女と思われる後姿を視線に捕らえた。
チャンスだと声を掛けようと向かうと、赤井に腕を掴まれて嫌がる彼女が居て――
あの時の光景を思い出しただけで、怒りでおかしくなりそうだ。
あの日はひとりで外の空気を吸いたくなり、気まぐれに訪れただけ。先客の存在に、しかたないとその場から去ろうとした。
でも自分に気付き驚いた彼女は膝に乗せていた弁当をひっくり返してしまう。
落ちてしまった弁当を片付けいる時の悲しそうな顔と言ったら……
(気の毒だったけど可愛かったな)
神様のバチが当たると慌てていた様子を思い出す。
綾は小さめの体つきと黒目がちな瞳がなんとも小動物を思わせる。
アメリカに留学していた時に公園でよく見かけたリスのようだと思う。
彼女が美味しそうにおにぎりやパンを食べていると、それこそリスがクルミでも齧っているようで可愛らしい。
時間が出来ると箱庭に出向き、その姿を見ながら自分も何となく休憩するという時間が海斗の癒しになっていた。
そうしているうちに『膝に乗せて手ずから食べさせたらどんな感じだろう』という少々危険な想像が浮かぶようになり、彼女に惹かれていることを自覚していった。
食べ物を大事にしているところも好感が持てるし、フワフワとした可愛い見た目に反して古風な考えや真面目で謙虚な所もいい。
海斗に対しても最初から非常にフラットに接し、耳障りの良い声で他愛の無い話をする。
話が途切れても無理に話そうとはしないが、その間すら心地いい。
自分に対しての態度は、色々詮索されたく無い海斗にとってはありがたかった。――初めのうちは。
彼女への好意を自覚してからは、この空気感のままではダメだと思うようになった。
もっと特別な存在になりたい。
昼休み仲間としか思っていなさそうな彼女にいきなり告白しても困惑されそうだ。
今までの関係性が壊れ、彼女との平和な時間が失われるのは怖い。
どこの恋愛小説かと自分に突っ込みを入れたくなるような心境になった。
仕事では常に冷静に的確な判断が出来るはずなのに、何も動き出せない。
自分を男と意識してもらってから告白したい。どうしたらいいかと思いながら悶々としていた。
そんな時に起こったのが綾の元カレである赤井の件だった。
あの日、本当は綾を食事にでも誘えたらと思っていた。
考えてみたら彼女のプライベートの連絡先も知らない。
まずはお互いの連絡先の交換からだな……と思考を巡らせながらオフィスビルを出ようとした時、帰宅しようとする彼女と思われる後姿を視線に捕らえた。
チャンスだと声を掛けようと向かうと、赤井に腕を掴まれて嫌がる彼女が居て――
あの時の光景を思い出しただけで、怒りでおかしくなりそうだ。