氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
彼の懊悩
(まあ、確かに今日は相当疲れさせてしまったからな……)
シャワーを終えてバスローブを着た海斗はソファーで座ったまま熟睡する綾を見て何とも言えない気分になる。
アデリーペンギンのぬいぐるみを両手で抱きこんだままスヤスヤと寝ている彼女は冗談抜きで天使にしか見えない。
彼女に言うつもりは無いが、このぬいぐるみはイギリス王室御用達のメーカーに急ぎ作らせた特注品だ。
もちろん綾にプレゼントする為に作られた世界で一つだけのもの。
パーティを来週末に控えた今日海斗は綾に想いを告げて、彼女を自分の物にするつもりだった。
概ね自分の思惑通りに事が進んだはずだ。
準備したドレスはどれも彼女に似合っていたが、最後のネイビーのドレスは本当に素晴らしかった。可愛らしくありながら清廉さもあった。
でも、ドレスが気に入って嬉しさを隠し切れない彼女のはにかむような笑顔の方が自分にとっては素晴らしかった。
ヘリコプターで東京上空をクルーズした時も、レストランで食事をした時も、目をキラキラさせて喜んでいるいる彼女を見ていると それだけで幸せな気分になるし、もっとその笑顔を見たいと思う。
こんな想いを抱く相手は綾に対してだけだ。
これまで何度も会う中で、自分の想いは伝わっていると思っていたものの、レストランで本当の恋人になって欲しいと告げた時はかなり緊張した。
しかも彼女は自分の態度は全部演技だと思っていたというから驚きだ。
「僕は演技であんな態度取れるほど大人じゃないよ……」
受け入れてくれて本当に良かった。
海斗は綾の前で膝を付き、下から覗き込むように手を伸ばし柔らかい髪の毛を撫でる。
この部屋に足を踏み入れた時、そのまま彼女をベッドルームに連れ込みたい衝動に駆られたが、さすがに年上の男として余裕が無さ過ぎると自分を抑えた。
(――痛いところ、突かれたな)
海斗が三笠の御曹司では無いかと聞かれた時、一瞬どう答えて良いか分からなかった。
そして、誤魔化すような答えをして、逃げた。
まずは彼女を手に入れてしまえ。まだ夜は長い、と、彼女を逃げられない状況にしている卑怯な安心感で余裕のあるフリをした。
その結果がコレなのだが。
(さすがにこんな幸せそうな顔で寝てる彼女をどうこうする訳にも行かないよな)
酷いことをしている自覚はあるが、そこまで鬼畜では無い。
海斗は、はぁ、とやるせない溜息を付いてから、彼女の膝の裏と背中に手を入れそっと抱き上げる。
心地よい重みと体温を感じながら静かにベッドルームまで運び、キングサイズのベッドに横たえ、肌掛けをふわりと被せてやる。
目が覚めるのでは?という仄かな期待は叶わず、彼女は完全に深い睡眠に囚われ続け、腕の中には相変わらずペンギンが抱きしめられている。
「――お前が羨ましいな」
綾の隣に寝転がった海斗は片腕で頬杖を突き、ぬいぐるみの黒い後ろ頭を小突く。
今夜はこのまま夜を明かすことになりそうだ。
色々と我慢を強いられるが、幸せそうな寝顔を見れるだけでも良いとしよう。
海斗は再び綾の髪をゆっくりと撫でる。
「――綾、君の望む事は全て僕が叶えてあげる。でも……」
僕から離れていく事だけは許さない。
聞こえないはずの相手にそっと呟いた。
シャワーを終えてバスローブを着た海斗はソファーで座ったまま熟睡する綾を見て何とも言えない気分になる。
アデリーペンギンのぬいぐるみを両手で抱きこんだままスヤスヤと寝ている彼女は冗談抜きで天使にしか見えない。
彼女に言うつもりは無いが、このぬいぐるみはイギリス王室御用達のメーカーに急ぎ作らせた特注品だ。
もちろん綾にプレゼントする為に作られた世界で一つだけのもの。
パーティを来週末に控えた今日海斗は綾に想いを告げて、彼女を自分の物にするつもりだった。
概ね自分の思惑通りに事が進んだはずだ。
準備したドレスはどれも彼女に似合っていたが、最後のネイビーのドレスは本当に素晴らしかった。可愛らしくありながら清廉さもあった。
でも、ドレスが気に入って嬉しさを隠し切れない彼女のはにかむような笑顔の方が自分にとっては素晴らしかった。
ヘリコプターで東京上空をクルーズした時も、レストランで食事をした時も、目をキラキラさせて喜んでいるいる彼女を見ていると それだけで幸せな気分になるし、もっとその笑顔を見たいと思う。
こんな想いを抱く相手は綾に対してだけだ。
これまで何度も会う中で、自分の想いは伝わっていると思っていたものの、レストランで本当の恋人になって欲しいと告げた時はかなり緊張した。
しかも彼女は自分の態度は全部演技だと思っていたというから驚きだ。
「僕は演技であんな態度取れるほど大人じゃないよ……」
受け入れてくれて本当に良かった。
海斗は綾の前で膝を付き、下から覗き込むように手を伸ばし柔らかい髪の毛を撫でる。
この部屋に足を踏み入れた時、そのまま彼女をベッドルームに連れ込みたい衝動に駆られたが、さすがに年上の男として余裕が無さ過ぎると自分を抑えた。
(――痛いところ、突かれたな)
海斗が三笠の御曹司では無いかと聞かれた時、一瞬どう答えて良いか分からなかった。
そして、誤魔化すような答えをして、逃げた。
まずは彼女を手に入れてしまえ。まだ夜は長い、と、彼女を逃げられない状況にしている卑怯な安心感で余裕のあるフリをした。
その結果がコレなのだが。
(さすがにこんな幸せそうな顔で寝てる彼女をどうこうする訳にも行かないよな)
酷いことをしている自覚はあるが、そこまで鬼畜では無い。
海斗は、はぁ、とやるせない溜息を付いてから、彼女の膝の裏と背中に手を入れそっと抱き上げる。
心地よい重みと体温を感じながら静かにベッドルームまで運び、キングサイズのベッドに横たえ、肌掛けをふわりと被せてやる。
目が覚めるのでは?という仄かな期待は叶わず、彼女は完全に深い睡眠に囚われ続け、腕の中には相変わらずペンギンが抱きしめられている。
「――お前が羨ましいな」
綾の隣に寝転がった海斗は片腕で頬杖を突き、ぬいぐるみの黒い後ろ頭を小突く。
今夜はこのまま夜を明かすことになりそうだ。
色々と我慢を強いられるが、幸せそうな寝顔を見れるだけでも良いとしよう。
海斗は再び綾の髪をゆっくりと撫でる。
「――綾、君の望む事は全て僕が叶えてあげる。でも……」
僕から離れていく事だけは許さない。
聞こえないはずの相手にそっと呟いた。