氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
 今、ラウファル飲んでいるのは期間限定の『ピーチフロ―ズン』という桃を使ったピンクの可愛いフローズンヨーグルトの飲み物だ。
 店の入り口にポスターが貼ってあるの見て「これを飲んでみたい」と言った。
 
 しかも、彼は財布を持っていなかったので綾が奢る事になった。
 こういった店はあまり来たことが無いらしい。
 そういえば、綾の勤める店で商品を買い求める時はいつもお付きの人が支払いをしていた。

(自分で財布を持つ習慣が無いのかな……まさかね)

 目の前でピンクの飲み物を太いストローで嬉しそうに飲む浅黒い肌の老紳士は微笑ましくて何だか憎めない。
 ピタパンとカフェオレを昼食にした綾は、そういえばだれかと食事を共にするのは久しぶりだな、と思う。
 そしてまた海斗の事が頭をよぎってしまう。最近何度同じことを繰り返しているだろう。

「それで、アーヤ、おごって貰ったお礼に君の悩みを聞いてあげようと思うんだが」

「えっ」

「今日はアーヤの可愛らしい顔が、ずっと寂しそうだ。何か深い悲しみを抱えているんだろう?」

 ラウファルは慈愛に満ちた顔でこちらを見つめてくる。

「ファルさん……」

 さすが年の功だ。綾の様子がいつもと違う事が分かったのだろうか。

「外国人の爺さんになら、気軽に話せる事もあるだろう」
 
 優しく包み込むような口調に、今まで誰にも言わずに溜めていた想いを聞いて貰いたくなってしまった。
 
「……好きになった人が、嘘をついていていたんです」

 綾の口から言葉が零れ始めた。
 
 綾が概要を一通り話し終えるまでラウファルは終始静かに綾の話に耳を傾けてくれていた。
 ピーチフローズンはだいぶ融けていた。
 
「アーヤは、その彼の事が信じられないのかい?」

「……嘘を付かれたのは事実なので……でも」

 感情的に逃げ出さずに確認をした方が良かったのかもしれない。
 でも「メリットが無い女とは結婚するのは意味が無い」とまで言っていたのだ。そんな事怖くて出来なかった。
 元カレに一度同じような理由で別れを告げられていたから、拒否反応が物凄く出てしまったんだと思う。
 
 他人に経緯を話すことによって、自分の感情を少しだが客観的に見る事が出来てきた。
 ラウファルはしばらく綾が思いを巡らせるの見守っていてくれた。
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