氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
 仕事を終えた綾は、自宅に戻り、部屋の隅においてあった段ボールを手に取った。
 海斗から送られたものの、開ける気にならず放置していたものだ。
 
 ラウファルと話して、自分がどうしたいか分かった気がする。
 本当は今も海斗の事が好きだと言う気持ちが無くならない。
 それはきっと、彼の事を信じたい気持ちがあるからだ。
 
 余計なものを取り払ってた時に思い出されるのは、あの箱庭でふたり並んで空を見上げた時の彼の穏やかな表情だ。
  
 もう一度、彼に会って事情を聞き自分の気持ちを納得させたい。
 たとえ更に傷ついたとしても、モヤモヤしたままだと歩き出せない。
  
 そう言うと、ラウファルは目元を綻ばせて
『それがいい、そういうのを「当たって砕けろ」って言うんだろう?辛いことになっても、行動しないよりいい』と笑ってくれた。

 なんだろう。あの老紳士と話していると不思議な既視感を感じる。

(おじいちゃんみたいな感覚があるのかな……全然ファルさんの方がイケてるけど)

 部屋に飾ってある江戸切子のグラスを視線をやりながら、ザ、日本のおじいちゃんという雰囲気だった自分の祖父の事を思い出し、クスリと笑う。

 やはり、少し気持ちが浮上してきた気がする。
 
 段ボールを閉じていたテープを丁寧に剥がし、中を確認する。
 予想通り綾の服がクリーニングされて入っていた。

 あのアデリーペンギンのぬいぐるみもあった。そしてぬいぐるみに添えるようにメモがついていた。
 そこには海斗の字でパーティの日は城山が家まで迎えに行くから来て欲しいと言う事と、もう一言添えてあった。 

『綾、僕を信じて欲しい』
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