氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
「海斗」
 
 年齢は80歳近いだろうか、小柄な年配男性だ。正装で、何人かお付きを連れているが、足取りはしっかりしている。

「会長」

(か、会長……!?)
 
 海斗の言葉にすくみ上る。
 ただでさえ心中ビクビクしていたのに、巨大企業である三笠ホールディングスの会長――三笠源一郎の登場に緊張がマックスになる。
 普通なら言葉を交わすことが出来ないような殿上人だ。
 
 源一郎は綾に視線を移して言う。
 
「……こちらの、お嬢さんが?」
 
 公になっていないものの海斗の祖父だと噂されている人物だ。しかも孫の海斗を相当見込んでいるという。素性の良くわからない綾の存在を歓迎することは無いはずだ。
 
「はい、彼女と将来を共にしたいと思っています」
 
 短く答える海斗の思いがけない言葉にガチガチになっていた体の力が抜け、思わず隣の海斗を見上げる。
 彼の横顔は真っすぐで穏やかだ。
 
 おまえもそんな顔が出来るとはな……と、源一郎は驚いた顔をする。
 
「そうか。それなら後は『彼』を押さえるだけだな」

「……そうですね」
 
「手強いが、頑張るといい。多少は援護出来るかもしれん……お嬢さん、海斗をよろしく頼むよ」
 源一郎はポカンとする綾に闊達に笑うとその場を後にした。
 
 その後も、社長や、社長夫人、息子の光孝など、三笠家の親族から何故か積極的に声を掛けられた。彼らは一様に、海斗の顔を見て驚き、綾に好意的だった。
 
「……あの、ちょっと飲み物を頂いてきます」
 
 緊張の連続で喉がカラカラだ。
 
「あぁ、ごめん。気が付かなくて、僕も少し緊張してたかな」

 いやいや、まったく堂々たる立ち居振る舞いでしたけど、と思う。
 テレビで見たことのある芸能人や、日本の政財界の重要人物と全く臆することなく対峙する海斗は改めてすごいなと思う一方、やはり違う世界の人なんだと寂しく思ってしまう。
 
 近くにウェイターが居ないので声を掛けに行こうかと思ったタイミングで海斗が招待客の一人海斗に声を掛けて来た。テレビのニュースで見たことがある。恐らく外務大臣だ。
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