氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
 海斗は綾の耳元で「少し腹ごしらえしておいで、パーティの料理楽しみしてたはずだったよね」
 僕もすぐ行くからと囁き彼女を開放する。
 
 確かに当初はパーティの料理が楽しみだったが、それどころでは無くて今の今まで忘れていた。
 
――それにしても三笠家の人たちに綾を邪魔者扱いする雰囲気は全く無く、寧ろ歓迎しているように見えた。
 何でだろうな……と少し緊張から解放された頭で思考を巡らせる。
 
 それに『将来を共にしたい』って言ってたのは、どういうことだろう。まるで結婚相手を紹介するような言い方では無いか。
 色々と気になる会話を思い出し胸を高鳴らせながら、料理が並べられたテーブルの方に向かう。

 すると、突然後ろから乱暴に肩を掴まれた。
 
「――綾、この前、忠告してやっただろう?」

「――充さん」
 
 綾の肩を掴み憮然とした表情を浮かべているのは赤井だ。

 彼がこのパーティに来ているとは思わなかった。
 吸収合併の吸収される側の十二建設の専務として三笠建設からお情けで招待を受けたと言うところだろうか。
 美しく着飾って海斗の横で三笠創業者一族と挨拶を交わす綾の姿を見て、妬ましく思ったのだろう。
 そして一人になるところを狙って声を掛けて来たのだ。
 
「三笠がお前なんかを受け入れるはずは無い。どう考えても釣り合いが取れないだろう?」
 
 赤井は自分に言い聞かせるように綾を貶める言葉を並べてくる。
 さすが一度は付き合った事がある相手だ。自分のしたことを棚上げした挙句、綾のデリケートな部分を的確に突いてくる。
 
 綾は赤井の悪意のある言葉に一瞬怯みかける。
 
 ――そんなことは分かってる。でも。

「……釣り合わないにしても、メリットが無いにしても。私が彼を思う気持ちは、変わらない」
 
 綾は声を低くして言う。それこそ自分に言い聞かせるように。
 そこにあるのは、三笠がどうとか、綾がどうというとでは無く、自分が間宮海斗という人が幸せだと感じて生きて欲しいと願っている事だった。
 彼に穏やかに笑っていて欲しい、あの時のように傷ついた顔をして欲しくない、というシンプルな思い。

 もし、彼自身が自分を必要としていないなら、自分は彼の前からスッパリいなくなろう。元々その事をはっきりさせるためにここに来たのだ。
 
「お前……何様のつもりだよ!」
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