氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
「でも、君に僕を好きになってもらわないと話にならないだろう?だから偽恋人や、パーティのパートナーという立場を作り上げて君に近づいたし、あわよくば君の身体も手に入れようと思った」

 そうすれば君は僕から離れていかないと思った――最低だろう?と海斗は自嘲気味に言う。
 
「パーティでも君が僕のパートナーだって周りに知らしめて、外堀を固めようと思っていたんだ。さっき、殿下――じいさんが言っていた通りだよ。君に逃げられるのが怖かったんだ。でも、本当は初めから君に伝えるべきだったんだ」

 海斗は一度言葉を区切り、綾の目を見つめて言う。
 
「綾、ここで初めて出会った時から君が好きだ。そして今は心から――愛してる」

「海斗、さん……」

(……私も、言わなきゃいけないのに)
 
 流されるのではなく、きちんと自分も想いを伝えたいのに、喉に言葉がつかえて出てこない。
 気が付くと綾の目から涙がこぼれていた。
 
「私も海斗さんが……好き。私もここで海斗さんと一緒に過ごす時間が幸せで、最初から惹かれていたんだと思います。だから海斗さんには幸せでいて欲しい」

 必死で声を出すと綾の手を握る海斗の手がピクリと動いた気がする。
 
「私、海斗さんの隣にいていいですか?――海斗さんは私といて幸せでいられますか?」
 はらはらと涙を流しながら綾は尋ねる。
 
「当然だよ。僕は君とでないと、幸せでいられない」
 
 海斗は目を眇めて綾の涙をそっと拭うとベンチから降りて綾の前に跪く。

「綾、改めて言わせて欲しい――君を愛しています。何があっても守るから、僕と結婚してください」
 
 タキシード姿の海斗がドレス姿の綾に跪き、手を取ってプロポーズしている姿は、おとぎ話で貴公子が姫に求婚している一枚の絵姿のようだ。

 彼が自分を望んでくれるなら、もう迷わない。

「はい。私も何があっても海斗さんから離れません」
 
 綾のはっきりとした言葉に一瞬目を見開いた後、心から嬉しそうに破顔する彼は、ラウファルの笑った顔に似ている。
 
 そう思っていると、下から覗き込むようにしていた彼は笑顔のまま顔を近づけ、綾の唇をそっと奪った。
 
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