氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
エピローグ
「綾ちゃん、そろそろ休憩行ってきてー」
 
「はーい」

 お客様を見送った後、店長のるりに声を掛けられる。
 
 海斗と想いが通じて早3ヶ月、綾は今日もMANOきりこベリーヒルズ店の店頭に立つ。
 
「今日は家に戻るの?」

「そうしようと思ってます」
 
「いいなー、超高級レジテンスの最上階だもんねー。」

 羨ましそうに言うるりだが、海斗との事を報告した時には喜びながらも『綾ちゃん、ごめん!』と複雑な顔をしながら謝られた。

 るりはベリーヒルズ開業時、監修に来ていた海斗と面識があったため、彼に綾のシフトや休憩時間の情報を流したり、綾の休暇を調整していたらしい。

 どおりでタイムリーに休暇が取れたりしたわけだ、と驚く綾に『中々重めの彼だけど、綾ちゃんの事を真剣に好きで、誠実でいてくれるのは間違いないと思っていたから』と語っていた。
 しかし、海斗に恩を売り、MANOきりこの製品をパーティの手土産にしてしまうあたり、さすがだと思った。
  
 ショッピングモールからレジデンスまでは少し歩くが、気分転換には程よい距離だ。
 エントランスに入るとカウンターでは、コンシェルジュが『おかえりなさいませ、間宮様』と声を掛けてくれる。
 正式には『間宮』にはなっていないのでちょっと照れ臭い。
 
 あの後、程なくしてふたりは婚約した。異を唱える人間はだれもいなかった。
 なんせ、パーティで大注目の中『アラブの氷帝』が友達だと公言し、いたく気に入っている様子を周囲に見せつけたのだから、綾の事についてとやかく言うものはこの先もいないだろう。
 
 ラウファルはあれから数日後、ふたりの想いが通じたことを確認すると、満足気に国に帰って行ったが、またすぐにプライベートジェットを飛ばして遊びに来そうだ。
 
 ラウファルと海斗の関係はこれまで通り公にすることは無いし、王族のめんどくさい事には巻き込まれないから安心するようにと言われている。
 
 双方の家族への挨拶も済ませた。綾の両親兄姉は海斗の美貌とハイスペックぶりに腰を抜かしていたし、ビデオ通話でカナダにいる海斗の両親に挨拶した綾は、彼らの美男美女ぶり、特に夏海のオリエンタルな美しさに腰を抜かした。
 気さくな彼らはふたりを祝福し、綾を歓迎してくれた。来月一時帰国すると言うので会うのが楽しみだ。
 
 最上階専用エレベータを降りるとすぐ海斗と綾が暮らす部屋がある。『部屋』という言葉を使うのもどうかと思うけれど。 

 最初にここにやって来た日に海斗ががコンシェルジュに紹介していた通り、そのままここに暮らす流れになってしまった。
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