氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
 3年前に祖母が他界し、すっかり弱ってしまった祖父は伏せがちになり「あのグラスは綾に貰って欲しい」と託した後、祖母を追うように亡くなってしまった。
  
 仕事を辞めた後転職を考えた時、ずっと心の中にあった祖父母の思い出と同じように、ずっと誰かに大事にしてもらえるようなものに携わる仕事がしてみたいと思った。

 単純だがまずは江戸切子に関わる求人を探した。運よく販売員を募集していたMANOきりこに応募し無事採用された。ちなみにその時面接したのがるりだ。
 気さくな彼女は綾を気に入ってくれて『一緒にベリーヒルズで働きましょう』と言ってくれた。
 
 本店での研修を経て今はベリーヒルズ店で働く日々だ。
 立ちっぱなしの仕事は、楽では無いが、綺麗なものに囲まれて働くのは嬉しいし、気に入って頂き大事に持ち帰っていただく姿を見るとやりがいを感じる。
 何より日本の伝統文化を守っていると言う自負もある。
  
 綾の人生の転機の切っ掛けを作った祖父母の大切な宝物。
 綾は敢えてガラスチェストの中に飾る事にした。重心が下に重いので倒れる事は無いしガラスチェストの中なら誤って倒すことも無いだろう。
 何より、いつも目に付く所に置いておきたかったのだ。
  
 綾は少しの間ぼんやりとグラスを眺めた。
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