氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む

救いの光

「綾さん、なんか元気ない？」

ふと間宮が綾の顔を覗き込んで来た。

「え？そう見えますか？」

「何となく、食いつきが悪い気がして」

「――はぁ」

　食いつきってなんだ、私は餌を投げられた池の魚かと思うが、秀麗な顔の彼が心配そうに見てくるので冗談を言っているとは思えない。曖昧に笑ってツッコミはやめておく。
　
　別に食欲がない訳ではなく、美味しくいただいているのだが、いつもよりぼんやりして食べるペースが落ちていたかもしれない。よく気が付いたものだ。
　
　今日も綾はイケメンを隣に昼食中だ。
　あれから一週間、幸い赤井からの接触はないのだが、気分爽快とは言えず、綾の気持ちを表すように空もどんよりと曇っている。
　
「大丈夫です、天気もあんまりよくないし、何となく気分も晴れないって言うか……そういえばそろそろ梅雨ですからここにはあまり来れなくなるかもしれませんね」

「え、どうして？」

「だって、雨が降ったらここだと濡れちゃうじゃないですか」

この場所には屋根が無いのだ。今までも雨が降った時はここには来ずバックヤードで食べたり、テナントに入っているコーヒーショップに行ったりしていた。
　コーヒーショップは雰囲気は良いが、やはり値が張るのでたまにしか行かないが。

「屋根があったらいいんですけどねぇ」

　３方向囲まれている狭いスペースなので屋根があればよっぽどの雨風でなければ大丈夫だろう。

「雨にけぶるヒルズをここから眺めるっていうのもオツかもしれません。まあ、今更屋根なんて付くとは思えませんけど」
　この場所自体がヒルズに忘れられているのでは無いかと思ってしまうくらいなのだから。

「確かに……そうだな」
　
　間宮は独り言ちるよう呟くと何かを思案するように黙ってしまった。
　そんな表情も雰囲気があってかっこいいとおにぎりを頬張りながら思う。
　
　ふたりの会話が途切れると、この狭い空間は風の音に交じった街の喧騒を遠く感じるだけになる。
　
　しかし彼と一緒の時間はこういう沈黙も不快に感じない。
（そういえば、充さんと付き合ってた頃は、沈黙が怖くって無理して話題を探してたなぁ……って何比べてるのよ。間宮さんは彼氏でも何でもないのに）

　想像だけでも申し訳なくなり、心を落ち着かせようとマグボトルに入れて来たお茶を飲んでみる。
　ひと心地付くと、間宮の視線が再びこちらに向かっていた。