厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「いい加減にせぬか!」


 いがみ合い、口論を続ける家臣同士の姿を見るに見かねたのか。


 ついに御屋形様が声を上げた。


 「腹を切るだとか、何を物騒な。余計な血などもうたくさんだ」


 御屋形様は以前から、家臣同士の和を重んじるというか、揉めごとを好まれなかった。


 「皆の者、もう下がるがよい。少し静かにしてはくれぬか」


 御屋形様は家臣全てに退出をお命じになった。


 「重ね重ね……、御屋形様をお苦しめになる御方だ」


 相良が先に、私に対し捨て台詞を残して去っていた。


 私も間もなく御屋形様の元を立ち去った。


 御屋形様は私を見ようともしない。


 以前ならばあのように私が責められている場面では、間違いなく私のことを庇ってくださった。


 だが今は……。


 さっきも言い争いをお止めになったが、それは私を庇ってのものではないことが悲しいくらいに分かっていた。


 ただ……御屋形様は、煩わしい諍いには関わりたくなかったにすぎないのだ。
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