厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 ……御屋形様に避けられるのが、何よりつらい。


 全て御屋形様のために尽力してきたはずなのに。


 何もかもが裏目に出てしまい、御屋形様を苦しませ、結果として御屋形様の心が離れていく。


 かつて馬を五時間も飛ばしてまで私に会いにきてくれた甘い日々が、はるかな記憶の中遠ざかっていく……。


 「陶どの、よく我慢なさいましたな」


 背後から呼び止められ振り向くと、そこに居たのは冷泉隆豊(れいぜい たかとよ)。


 「冷泉どの」


 冷泉どのも私と同じく、早くから御屋形様に仕えてきた。


 私よりも八歳年上で、仕事上の分からないことなどはあれこれ指導してくれる、兄のような存在だった。


 「尼子との戦が上手くいかなかったのは、我らの責任でもあるものの、相良どのの言い方はあまりにひどすぎる。いくら最初から戦に反対していたからって、まるで鬼の首を取ったように……」


 私の気持ちを代弁するかのように、冷泉どのは怒りを分かち合ってくれた。
< 105 / 250 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop