厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「お心遣いかたじけない、冷泉どの。だが相良の言うことにも一理あるのかもしれぬ。私が強引に遠征を推進したばかりに……」


 「陶どのだけのせいではない。……今でも悔やまれる。私があの時、晴持さまの御手を離していなければ」


 冷泉どのは大内の水軍を率いる立場にあり、出雲遠征にも従軍していた。


 撤退の際、水軍を手配して晴持さまを船に乗せ、山口へ戻ることになったのだが。


 沖合いに停泊中の大型船へと向かう小舟が転覆し、晴持さまは海の藻屑となってしまった。


 「あの時、手を離さなければ……」


 側にいた冷泉どのは必死で手を伸ばし、晴持さまをすくい上げようとした。


 だがあとわずかのところで晴持さまの手はすり抜けてしまい、そのまま沈んでいかれたという。


 「晴持さまの死は、大内家の行く末にも多大なる影響を与えてしまう。だからこそこの身を犠牲にしてでも、お救い申し上げるべきだった」


 無理矢理戦を推し進めたことに対し、私が責任を感じているのと同様。


 冷泉どのもまた、晴持さまを助けられなかったことに対し責任を感じ、罪の意識に苛まれていた。
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