厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 ……。


 「紐がほどけそうだ」


 長く馬に乗り続けて疲れたので、丘の上で御屋形様は休息をお取りになる。


 すでに他の供の者は脱落してしまっており、ここまで付いてこれたのは私のみ……。


 とはいえ御屋形様の速さに付いていくのは大変で、馬のみならず私も息も絶え絶え、髪も乱れていた。


 髷(まげ)を結う紐がほどけそうになっていたようで、御屋形様が結い直してくれようとする。


 「とんでもございません、私が自分で」


 「よい。私に任せよ」


 「ですが……」


 「お前の美しい黒髪の手入れをするのも、主君としての特権だ」


 結局逆らうことができず、御屋形様に髷を結い直してもらった。


 夏のはじめの、風の穏かな一日だった。
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