厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 同時に貞子さまは、御屋形様にも次のような歌をしたためた。


 「思ふこと 二つありその 浜地鳥


 踏み違えたる 跡をこそ見れ」


 (想う相手が二人いますね。浜千鳥が踏み間違えた足跡をご覧なさい)


 「踏み違えたる」の「踏み」は「文」を指す。


 御屋形様の恋文が間違って、私ではなくよりにもよって貞子さまに届けられた。


 正妻ではなく、寵臣に……。


 普通ならば怒り狂っても当然のところではあるが、貞子さまは「大人の対応」に終始された。


 嫁がれたばかりの頃ならば、気まぐれで浮気性な御屋形様の一挙手一投足に振り回されたりされたようだけど。


 月日を経てあきらめの境地というか、貞子さまは冷めた目で御屋形様のことをご覧になるようになられたようだ。


 「一々腹を立てていてはきりがない。くだらないことに心を悩まされる暇があったら、私は好きなように生きる」


 あてにならない御屋形様の心を頼りにして傷つくくらいならば、大内家の正室としての特権は享受しつつ、ご自身の思いのままに生きようと決意なさったのだった。
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