厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「それはそうと。御屋形様が新たに後継者にと迎えた晴英(はるひで)を、あまり可愛がられてはいない様子」


 「!」


 次期大内家当主の地位が約束されていた、晴持さまを失った御屋形様は。


 これまた九州の名門・大友家に嫁がれた姉上の御子である晴英さまを呼び寄せ、新たな後継者と定めたのだった。


 晴英さまには兄(後の大友宗麟)がおり、大友家を継ぐことはないため、他家へ養子へ出される運命ではあったが。


 西日本の覇者である大内家の後継者の地位は、晴英さまにはこの上なく美味しい話であったはず。


 ところが。


 共に御屋形様の姉上の御子であり、血筋的には甲乙付けがたいはずなのに。


 ……御屋形様は晴英さまには冷淡だった。


 かつて晴持さまを慈しまれたように接することは、決してない。


 「晴持さまの生まれついての美しさと高貴さには、残念ながら到底及ばない」


 口の悪い者たちは、陰でそんなことをつぶやいている。


 だがそれは的を射た表現だった。


 晴持さまの魅力には及ばない晴英さまを、御屋形様は露骨に冷淡に扱われたのだった。
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