厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 晴英さまとて我らが大内家と、九州の名門大友家の血を引く御曹司であり。


 その清らかな御姿を一目見た大内家の重臣たちも、新たな後継者が誕生したと誰しもが安堵したものだったのだが。


 肝心の御屋形様が……。


 「亡き晴持の麗しい面影には、遠く及ばぬ」


 渡り廊下の上から貞子さまは、相変わらず冷淡に言い放つ。


 「大内家には跡継ぎが必要ゆえ、御屋形様は晴英をこの山口に留め置くが、御屋形様は決して晴持の面影を忘れることはない」


 「亡き晴持さまと比べられ、冷遇され続けるのはむなしいものがありますね。生涯を通じて」


 「いや、生涯を通じてとは限らぬ」


 貞子さまが私の言葉を遮り、こう述べた。


 「いつの日か御屋形様に実の御子が生まれるようなことがあらば、晴英は九州に帰されることとなろう」
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