厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「御屋形様の、実の御子?」


 私の声は知らずと大きくなっていた。


 それだけ貞子さまの申されたことは、荒唐無稽な部類だったからだ。


 「まさか今になって……」


 家督を継いで以来、かなりの年月が流れた今となっても、御屋形様に御子が誕生される気配すらない。


 御屋形様が女よりも美少年を好まれることは広く知れ渡っており、世継ぎをもうけるためにさらに側室をお迎えになるよう重臣たちがご忠告申し上げても、聞く耳を持たなかった。


 それゆえ大内家の後継者は生まれないまま今に至り、重臣たちも実子誕生はあきらめて、他家から養子を迎えることを認めざるを得なかったのだ。


 今までどんなに周りが説得しても聞く耳をお持ちにならなかった御屋形様が、今後意を決して実子をもうけようなどと考え直すことなど……有り得ない。


 「もしや貞子さまとそれらしきことでも?」


 「まさか」


 自嘲的に顔を背けた貞子さま。


 御屋形様と貞子さまの関係が円満とは程遠いものであることも、これまた周知の事実だった。
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