厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 御屋形様の寵愛を失って以来。


 私は重臣として、ひたすら政務に没頭していた。


 御屋形様が政治に対して興味を失われて久しく、寵臣の相良もいい加減なことしかしないので、私を含む古参の重臣たちはその尻拭いに追われることも少なくなかった。


 大内家当主として、以前のように軍を率いて近隣諸国に睨みを利かすこともなくなったため、尼子も勢力をかなり回復してきている。


 これ以上放置すれば大内家を脅かす存在となるため、軍事行動を起こせない代わりに外交活動などで周辺諸国へ盟約の書類などを送って同盟を維持しなければならない。


 やるべきことはたくさんある。


 御屋形様からの寵愛を失った痛手すら、いつしか忘れてしまいそうなくらい……。


 嘘だ。


 どんなに仕事に没頭しても、ふと我に返ればすぐに御屋形様の温もりを思い出してしまい、再び孤独に苛まれる。


 ……必死で任務をこなし、大内家そして御屋形様のために成果を収める。


 そして……御屋形様に認めてもらいたいと願っている。


 「やはり私にはお前しかいない」と微笑みながら私に告げて。


 そしてあの頃のように抱きしめてほしいと、呆れるほどに待ち焦がれている自分がいる。
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