厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「そう険しい表情ばかり」


 庭園を流れる小川のほとりに佇み、蛍の舞う時を待ち続けていた私の背後に、御屋形様の正室・貞子さまが近付いていた。


 「男の一番美しい時期を、憂いてばかりで無駄に過ごすなど、なんて惜しいこと」


 からかうようなまなざしを私に向ける。


 「そろそろ夕闇迫る刻でございます。お屋敷に戻られたほうが」


 「私がいようといまいと、誰も気にも留めぬ」


 「……」


 御屋形様は依然として、貞子さまを避けられたままだ。


 以前から劣等感を覚えていたのに加え、享楽な日々に溺れてしまってからはますます。


 まさに合わせる顔がないとでも示すかのように。


 ……大内館を取り囲むこの庭園は、御屋形様の指示で整えられたもの。


 京風なものをこの上なく好まれる御屋形様の趣味により、京の庭園をそのままここに移してきたような豪勢な作り。
< 129 / 250 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop