厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「この庭園も……。見た目は京そのものではあるが、見かけだけ」


 日没後の残照により、庭園は美しく輝いている。


 それはまるで、京の都を彷彿とさせているが……。


 「所詮は偽物」


 貞子さまは言い放った。


 「かつて……、本物の京の庭園を見せてやると、約束されたこともあったが……」


 貞子さまが京から嫁がれた頃は、京の名門貴族出身であった貞子さまを御屋形様はそれはそれは大切にもてなされた。


 いずれ大内家が上洛し、天下に号令を鳴らしたあかつきには、再び貞子さまを京にお連れすると約束なさっていたのに。


 約束は記憶のはるか彼方へと消え失せ、天下統一への野心も御屋形さまには一片もすでに残っていない。


 かつて幾度となく私を抱きながら、上洛の夢を語っていらしたのに。


 上洛してこの乱世を終わらせ、帝によりその功績を認められ、大内家はこの国の隅々にその名をとどろかせるはずだったのに……。
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