厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「このまま見て見ぬふりを続け、大内家が自ら崩壊していくのを待つつもりか」


 貞子さまが私に問いかける。


 「私には……、どうすることも」


 「隆房。そなたにしか御屋形を止めることはできぬ」


 「……」


 貞子さまはそう申されるが。


 かの月山富田城での負け戦以降、寵愛を失った私に何ができると?


 今では御屋形に悔い改めるよう忠告申し上げても。


 不快そうな表情が返ってくるだけ。


 そしてあの相良武任が陰で私の悪口を吹き込んでいるようで、私の印象がますます悪くなっていく。


 あんな奴の讒言を真に受けて、幼い頃からおそばでお仕えした私の悪い噂を信じてしまわれる御屋形様。


 悔しさ、腹立たしさを通り越して……虚しさを覚える。


 「時が解決してくれる。真面目にお仕えしていればいつかは分かってくれる……と信じて待っているだけでは、何も変わらぬばかりか、そなたは居場所を失うのみで」


 その時、この夕刻初めての蛍が舞った。


 「このままでは大内家が滅びると言っても、過言ではない」


 貞子さまも蛍の光を見つめながら、そう告げた。
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