厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 ……貞子さまと別れ、私は自室に戻った。


 蛍があまりに見事で、しばし見入っていたいところではあったが。


 誰が見ているか分からない。


 夜のとばりに覆われた庭園で、当主の正室と重臣が二人きり。


 もしも私と貞子さまの仲を取り沙汰されたら……私の政治生命に関わる。


 特に私の存在が邪魔でたまらない相良などは、そんな噂を耳にしようものなら、鬼の首でも取ったかのように私を責め立てるだろう。


 排斥……追放されるだけならまだしも。


 命まで奪われるかもしれない。


 御屋形様の権威を傷つけたとして、死罪となることも考えられる。


 ……今はまだ、無駄死にするわけにはいかない。


 この中途半端な状態で、何事も成し遂げていない今はまだ、何としても生き延びなければならないのだ。
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