厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「ご懐妊……?」


 信じられなかった。


 それが現実であるとは、到底受け入れがたいものだった。


 同僚の冷泉隆豊(れいぜい たかとよ)どのが密かに伝えてくれたのだが、私は驚きのあまり言葉を失ってしまった。


 「正式発表はまだなのですが……」


 「……」


 私は冷泉どのの言葉を一つ一つ噛みしめながら、事実を確認していた。


 ……御屋形様に、御子が誕生されるらしい。


 初の御子。


 「今になって……?」


 つい本音を漏らしてしまった。


 冷泉どのも同じことを考えているようだ。


 間もなく四十になろうというのに、これまでずっと御子がお生まれにならなかった御屋形様に降って沸いた、突然の事態。


 大内家にとって大変めでたい話であるはずなのにもかかわらず、素直に受け止められない。


 「腹の中の御子が、男子とは限りませんが……」


 男子誕生ともなれば。


 もう後継者は得られないと、大友家から養子に迎えた晴英さまのお立場は微妙なものとなる。


 しかも相手の女は、彩子(さいこ)。


 貞子さまの侍女であるが、あまりいい噂を聞かない女だ。
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