厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「災いをもたらす女……」


 屋敷に戻り、一人月を見上げながらそうつぶやいた。


 彩子の懐妊を知ったこの世、私はいつもに増して孤独に苛まれた。


 (御屋形様が、彩子と……)


 どういうきっかけで関係を持ったのだろう。


 御屋形様が誘惑されたのか、それとも彩子が御屋形様をたぶらかしたのか。


 ……どうでもいい。


 御屋形様が彩子を愛されたということは、偽りのない事実。


 「……」


 全身の血が逆流するような感覚が押し寄せる。


 ……嫉妬?


 私は彩子を殺してしまいたい衝動に襲われていた。


 御屋形様の愛を受けて、堂々と子を産むことのできる立場の女を。


 かつて御屋形様の寵愛を、一身に受けていた頃。


 「私のことはほどほどになさって。たまにはご正室様のご機嫌伺を。御屋形様は大内家当主として、世継ぎをもうけなければならないお立場」


 過度に私を愛される御屋形様に対し、そんなことを口走ってお諫めしたものだ。


 大内家を存続させるためには、貞子さまとの間にお世継ぎをもうけていただく必要がある。


 そうしていただかなくては困るので、家臣として御屋形様に幾度となく忠告申し上げたのだ。
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