厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 外は依然として強い雨で、時折雷鳴と稲光が聴覚と視覚を脅かす中、御屋形様の鼓動が私の耳元に響いてくる。


 「雷など気にせず、私だけ見ておればよい」


 「……」


 それは私に対する命令などではなく、御屋形様は自分自身に言い聞かせているような気がしていた。


 そして、重ねられた唇。


 頭の中が全て、甘い予感に支配されてしまう。


 「五郎。私のものになってくれ」


 「私はこの身を、命を。……すべてを御屋形様に捧げるために生まれてきたのです」


 「私のためになど死なずともよい。お前に死なれては、私の胸はつらくて引き裂かれそうだ」


 「御屋形様……」


 御屋形様の腕の中、もう私は何も考えられなかった。


 ただ御屋形様に与えられるものを、受け入れるのみ……。
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