厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「隆房。帰国するなり挨拶もろくにしないまま、見苦しい格好で乱入するとはどういう考えだ。私はお前をそんな無礼者に育てた覚えはない」


 御屋形様はまず私の短慮をお責めになり、


 「……この度相良を九州から呼び戻したのは、相良の宮中儀礼に関する知識が必要だったからだ。この大内家に相良ほど、宮中のしきたりに通じた者はおらぬ」


 確かに私が戦に出ていて不在の折、御屋形様は朝廷より「従二位(じゅにい)」の位を賜っていた。


 いくら西国一の大名とはいえ、武士の身分でこのような高い位を賜るのは異例中の異例。


 今までは武士はどんなに活躍しても、「三位」がやっとだった。


 しかしここに来て、大内家の度重なる朝廷への政治献金がものを言ったのか。


 朝廷は御屋形様に、武士としては前代未聞の従二位の位を与えたのだった。


 官位を与える際、朝廷からの使者が遠路はるばる山口まで訪れる。


 その使者たちを迎え入れ、官位授受の儀式を執り行うためには、相良の知識が是が非でも必要であった……と御屋形様は言い訳をなさる。
< 165 / 250 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop