厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「本当にそれだけでしょうか。人の居ぬ間に、人の目を盗むかのように」


 「もうよい、下がれ」


 なおも抵抗を続ける私に、御屋形様はついに退出命令を下された。


 「……」


 これ以上の抵抗は無意味であるし、自分の立場をますます悪くすることが分かり切っていたため、私は悔しさをかみ殺して部屋を出た。


 「……女の嫉妬も恐ろしいものやけど」


 我々の言い争いの間、黙って見守るだけだった取り巻きの公家たちは、


 「男の嫉妬とやらも、大概やな」


 遠ざかる私の背に向けて言い放つ。


 「嫉妬に狂って怨霊にでもならなければいいが」


 鎧姿で髪を振り乱し、御屋形様に詰め寄る私の姿は。


 公家どもにとっては、戦で負けて命を落とした落ち武者の怨霊よりも、よっぽど恐ろしく見えていたことだろう。
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