厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 現状を覆すことが不可能と悟った私は、そのまま自邸へと一人戻った。


 ようやく戦を終え、御屋形様の元へ戻る日をあんなに楽しみにしていたというのに。


 久方ぶりに館に戻った私に待ち受けていたのは、御屋形様からの労いの言葉と、かつてのような甘い抱擁などではなく。


 私の不在の間に、宿敵の相良が館に復帰していたという苦い現実。


 さらなる御屋形様からの裏切りが、私を完膚なきまでに打ちのめす。


 相良の復帰は、私が再び御屋形様の寵愛を失うことのみならず。


 政治面でも相良への敗北を意味する。


 大内家では長らく、軍事面に重きを置く武断派(ぶだんは)と、政策面を司る文治派(ぶんちは)の派閥争いが繰り広げられていた。


 武断派の代表はもちろん私であり、敵対勢力である文治派の代表格が相良。


 御屋形様への寵愛を巡る争いだけではなく、大内家の舵取りの主導権争いにおいても我々は対立する運命にあったのだ。
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